草食バレンタイン


今まで、ずっと年上の男性が好きだった。

私の男性理想像というものは、きっと至極一般的で、誠実で優しくて包容力があって――――それに当てはまる人はいつだって年上の人。

自分を甘えさせてくれる人。

それは後にも先にも変わらない私の理想のタイプなんだと…彼と出逢うまでは思っていた。


「ゆき乃さん!」

「うん?」

「今日も頑張りましょうね!」


ニッコリ笑顔でそう言うと、クルッと背を向けて自分のデスクに戻っていった。

そ、それだけなの?

同じ部署で働く男…というより、男の子。

営業所属の木村慧人。

愛嬌があっていつも笑顔でいて、仕事に一生懸命で、だから何となく…可愛い後輩というか弟のような存在だった。

当たり前に恋愛対象になるなんてない。

同じ会社の人でもそうなる可能性は低いのに、ましてや自分のタイプでも何でもない年下の男の子を好きになるなんて――――


「好きなら、自分から言えばいいんじゃね?」

「は?好きじゃないって!」

「ふうん」


――――ないはず。

目の前の定食にガッツク、同期のなっちゃん。

偶然同じ時間に昼休憩になったから相席したんだけど。

最近どう?――なんて聞かれたから、直近の出来事を話たんだけど。

全然興味ねぇじゃん!


「素直じゃないとモテねぇぞ」

「そういうんじゃないって本当に」

「ゆき乃がそうでも、慧人は好きだろ?ゆき乃のこと」

「…分かんないよそんなの」

「は?」

「だってそんなの一言も言われてない!この前も、“チョコ欲しい”って言われたけど、そんなんじゃ分かんないよ!イマドキの子はあれで伝わると思ってるわけ!?足んなくないっ?」

「おうおう、落ち着けって!興奮すんなよ…まぁあれじゃね?草食系ってやつ」


はい、と渡されたお茶を一気に飲み干した。

言葉にしたら次々と出てくる不満。

自分の気持ちも曖昧な部分があるけど、突っ走れない理由はたくさんあった。

年下だから、ってのも大きい。

そんなの好きになったら関係ないんだって思ってる。

今までのタイプの人と違うのも、今まではタイプ通りでうまくいかなかったんだからそれも有りなんじゃないかって思う自分もいる。

だけど…年下だからって、草食だからって良しとできることじゃない。


「それをそのまま言えばいいのに…じゃなきゃ一生気づかなくね?」

「言いたくないよ自分からなんて」

「女の意地?」

「男の意地を見せてほしいのよ、慧人に」


自分がこんな風に思うのは、言葉はなくても慧人の気持ちが届いてるからなんだと思う。

そこまで鈍感じゃない。

でもそれが、単に先輩として慕ってるのかどうかの線引きが曖昧で、だからこそ欲しいんだ――――私の心を奪う言葉を。




会社に戻る途中、雑貨屋さんに大きく展開されていたバレンタインコーナー。

ピンクや赤で彩られたその空間に、心が浮くのはやっぱり私が女だからだろうか。

頭の中で考えちゃうのは、やっぱり好きだからなのかな。

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