「ゆき乃さん!この資料見てほしいっす」
午後の始業後、手に書類をもって慧人が私のところにやってきた。
なっちゃんと色々と話してたからだろうか。
慧人の顔を見ただけで、胸の奥がムズムズするというかこそばゆい感じ。
「ここなんですけどね、」
そう言いながら椅子に座ってる私に寄ろうとしたのかグッと顔が近くなった。
距離が近い。
顔が近い。
その時にフワッと、いい香りがして…不覚にもドキッとしてしまう。
「慧人もうちょっと…」
「え?」
「なんか近い」
「え、あ!すいません、俺…」
至近距離で目が合って、慧人の顔が赤くなっていくのがはっきり分かった。
それと同時に、私の顔が熱くなるのも。
めっちゃ意識してるじゃん私!
心の中でそう突っ込むも、この距離に緊張する。
だって、全然嫌じゃない。
むしろ――
「ゆき乃さん俺…」
すぐに一歩下がると思った慧人。
だけど少し顔を離しただけで、何か言いたげに口ごもった。
さっきまであった仕事モードの慧人とは違う。
妙なドキドキを胸に抱えてる私に、慧人は何も言わずに…――――資料を持っていた私の手をギュッと掴んだ。
途端に心臓が弾ける音がした。
「ゆき乃さ、」
「ミーティングっ!」
「へ?」
「これからなっちゃんとミーティングあるんだった!これ、後でもいいかな?」
「あ、はい」
心臓もたない!
そう思ってわざと慧人と距離をとった。
慧人の言葉を、遮ったことを後悔するとも気づかずに。
スッと遠慮がちに私から離れていく温もり。
自分がそうしたことなのに、さっきまでとは違う締め付けに襲われたんだ。