草食バレンタイン


チョコが欲しいと言った慧人。

あれが慧人なりの気持ちの伝え方っていうなら、私が気持ちをオープンにさえすればこの想いは恋になるんだろうか。

でも…やっぱり認めるのは勇気がいる。

認めたら、もう後戻りできない気がするから。




そんなモヤモヤした気持ちを抱えたまま過ごした数日後、私の気持ちは簡単に答えを出した。


「あたし、慧人くん狙い〜!」

「え、前は違うって」

「だって最近カッコいいんだもん」


私よりも高くて若い声の集まりが聞こえた来て、食べていた手を止めた。

会社近くのカフェ。

昼時は当たり前に同じ会社の人はいて、顔も知らない人もいるから特に気にせず食べていたけど…聞こえたきたその名前に反応してしまった。

その女子達はバレンタインの話題で盛り上がっていた。

確か、受付の女の子達。

それは別にいい。

関係ない。

でも――


「この前、LINE交換したの!日曜日デートするんだ」


これが本当かどうかは分からない。

分からないのに、私の心は穏やかじゃなくて、むしろ動揺していた。

慧人がハッキリした言葉をくれないからと理由をつけて、素直にならなかった罰なんだろうか。

やっぱり若い子がいいと気づいた?

こんなオバサン面倒になった?

胸の奥が苦しくて、今すぐ慧人に会いたくなるなんて――――


「もう、戻れないじゃん…」


いつの間に、私の中の慧人はこんなに大きくなっていたんだろう。

全然タイプじゃないのに。

草食なのに。

こうして欲しい、こう言って欲しいって思うことがいっぱいなのに、どうしてそんな慧人でも胸がキュッと疼くんだろう。




こんな事でしか、自分の気持ちが見えないなんて。

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