あたしが先生に想いを伝えても、あたしと先生の距離は変わらなかった。
それが余計に悔しくて。
でも、好きって気持ちは消えてくれない。
“生徒を疑うなんて有り得ません…最後まで信じてやるのが普通でしょう?それに、保科はそんな事しませんよ”
半年前、あたしがある事件に巻き込まれた時。
偶然居合わせた他校の万引き現場にあたしがいて、進学校の生徒の仕業なのに真っ先に疑われたのは髪を染めてるあたしだった。
違うって言ったのに、駆けつけた担任はあたしの言葉を聞かなかった。
その時一緒に来たのが、夏喜先生で。
たまたま居合わせただけなのかどうかは分からないけど、その場にいた誰よりも一番に、あたしの事を見てくれた。
生徒を守るという正義感からだったのかもしれない。
それでも、あたしの目を見て「信じる」と言ってくれた先生に、あたしの心は救われた。
あの瞬間から、あたしの心は先生を追いかけてる。
少しずつ大きくなっていった想いは、そう簡単に諦められないんだ。
「保科」
「なに?先生」
「どういう事だ?」
ヒラリとあたしの前に紙を差し出す先生。
いつも同じ、というよりもいつもより険しい表情であたしを見ている。
少しでも多く先生の視線の先にいたくて、でも…すでに想いを伝えているあたしには、これ以上どうしたらいいのかも分からなかった。
だから――
「白紙だなんて、どういうつもりだ?」
――こんな事しか思いつかない。
中間試験の回答を、わざと白紙で出した。
現国だけ。
そしたらきっと、先生はこうしてあたしを注意するだろうから…。
「だって…」
「……」
「こうしたら、先生があたしを気にしてくれるかなって――」
「ばかやろうっ!!」
先生の大きな声にビクッと肩が上がった。
こんな風に先生が怒鳴るのは、初めてで…生徒に声を荒げるなんて先生は初めてで。
あたしの幼稚な発想も、先生はきっと見抜いていて、だからきっとこんなに怒ってるんだと思う。
吃驚したのと、先生を怒らせちゃった後悔とで――――鼻の奥がツンとした。
自分が悪いんだけど。
「そんな事で、保科の大事な人生を無駄にするなよ。進級に関わってくる試験だぞ」
「…そんな事?」
「……」
「え、先生にとってあたしの気持ちって“そんな事”なの?どうでもいい事なの!?」
「違う、そういうことじゃなくて!」
「ずるいよ先生…あたし本気で伝えたのにっ」
「……」
「先生は生徒思いで優しいけど、でも…その優しさ辛い。先生の生徒でいるのが辛いよ!」
白紙の答案用紙を投げつけて、準備室から飛び出した。
保科っ――と先生があたしを呼ぶ声が聞こえたけど、追いかけてくる足音は聞こえなくて。
いつまでも届かない想いの終わりが見えた。
先生だから生徒を突っぱねることができないんだって、本当は分かってた。
それでもあたしは先生への想いを消せなくて、だからその優しさに甘えてずっと追いかけていたけど…――これ以上は無理かもしれない。
もう、頑張るのが虚しい。