涙のあとには


最後の一口を、頬張った瞬間にやってきた黎弥くん。

パッチリと目が合って、それから嬉しそうに笑いながら私の前に座った。


「めっちゃ口開いてた!やっぱ変わってないなぁゆき乃ちゃん」


言い返したいけど、モグモグしてて喋れない。

私が飲み込むまで、机に頬杖をついてジッと私を見るから…喋れるようになっても、何も言えなかった。


「黎弥くん、髪の毛セットしてきたでしょ」

「バレた?」

「分かるよぉ!気合い入れてきたの?」

「当たり前っしょ!ゆき乃ちゃん送るのにダサい格好じゃ隣歩けないし」


これが恋人の会話だったらどれだけ幸せか。

嬉しいのに、少しだけ苦しいのは…やっぱり、黎弥くんと気持ちが通じ合ってないからかもしれない。


「仕事、慣れた?」

「ううん全然だよ…社会人は思ってたより大変」

「だよなぁ〜俺はまだその辺よくわかってないけど…きっとゆき乃ちゃんの事だから、めちゃくちゃ頑張ってるんだろうなーって思う。バイトの時も一生懸命だったし」

「そうだった?私」

「うん、すげぇメモ取ってた」

「あんまり覚えてない…」

「うっそ!俺すっごい覚えてる!」

「そんなに私の事見てたのぉ?」


ジッと黎弥くんを見て言ってみた。

いつもの冗談を言い合うみたいに。

だけど、黎弥くんが一瞬目を見開いて、ボンと顔が赤くなって、


「めめめ目に入ったんだよ!ゆき乃ちゃんとはよくシフト被ってたから」


予想外の反応に、私の心がキュウと締まった。

本気が冗談で返ってこないと、どうしたらいいのか分からなくなる。

黎弥くんの照れがどういう意味を持ってるのか、知りたくなる。

この恋は、継続させてもいいんだろうか。


「あーでも…ゆき乃ちゃんが笑うとみんな笑うから、自然と目で追ってたのかも」


ポリっと頭を掻きながらそう続けた黎弥くん。

その仕草と言葉に、私は確信した――――やっぱりやっぱり、黎弥くんが好き。


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