私のローストビーフ丼は、黎弥くんがいつの間にか支払いをしていてくれた。
初任給もらったよ?――って言ったのに、「ゆき乃ちゃんには俺が奢りたいんだよ」と格好つけてドアまで開けて待っててくれて、物凄くジェントルマン。
いや、バイトしてる時からよく色々と奢ってもらってた。
黎弥くんのさり気ない優しさに触れてきた。
だからこそ好きになったんだと思うし、同じように広がってる世界も、自分の立つ位置が少しだけ変わるだけでもこんなにも改めて気づくことが多いんだと今日来て分かった。
「あれ?黎弥くんバイクだった?」
「ああいいのいいの!メット一つしかないしそれに…すぐに着いちゃうじゃん?バイクだと」
そう言って歩き出す黎弥くん。
こうして一歩引いてみるとやっぱり格好良くて、上着のポケットに手を突っ込んで、私が来ないのを心配して振り向く黎弥くんを見て、心臓が最高潮に高鳴った。
私を後押しする何かが、胸を叩いてる。
「黎弥くんっ!……手」
「ん?」
「手、繋ごう?」
少し駆けて黎弥くんの横に着くと、チョンと黎弥くんの服の袖を掴んだ。
私のことを二度見した黎弥くん。
それから、ニッと唇を横に広げて笑って、
「お、いいね!」
黎弥くんの袖を掴んでいた私の手をギュッと掴むように引っ張ると、私よりも大きい黎弥くんの手にドキッとして熱い。
結構勇気だして言ってみたけど、この気持ちに黎弥くんは気づいてるんだろうか。
「ゆき乃ちゃんの手、ちっさいな」
そう言いながらキュッキュッと遊ぶように握りしめる。
分かって…ないのかな。
私が黎弥くんの手をギュッとすると、視線が私に降りてきて、つぶらな瞳を私に向ける。
「ゆき乃ちゃん」
呼ばれ慣れた名前なのに、こんな状況だからか…真新しく感じる。
このまま時間が止まっちゃえばいいのにって思う。
ずっと、この手を繋いだままでいてくれないだろうか。
「今度さ、」
空いてる手でポリッと頭を掻く黎弥くん。
期待しちゃいそうなこの空気にドクドクと心臓が鳴る。
「あー…また今度、ゆき乃ちゃんの時間あったら集まろうや?みんな…集めとくし」
「…うん」
「ゆき乃ちゃん、また会える?」
「なぁに?そんなに私に会いたいの?」
「うん…なんか、ゆき乃ちゃんが辞めてから会わないのがしっくりこなくて。ゆき乃ちゃんに会わなきゃ俺、元気出ないかも」
そう言ってニッと笑う黎弥くんは、ズルイ。
また冗談で、私の心をうるさくさせるんだから。
「じゃあ黎弥くんに元気届けに来るよ!」
愛も一緒にね。