涙のあとには


「ゆき乃ちゃん!」


大きく手を振る黎弥くんに駆け寄る。

ファミレスの入口でバイクに軽く腰掛けて待っていた黎弥くん。


「黎弥くん、わざわざありがとう」

「いいよいいよ!」

「みんなは?」


今日はバイト仲間での飲み会。

何度かファミレスにいって顔を合わせてはいるものの、家飲みという学生スタイルに、懐かしく思って楽しみにしていた。

それに…黎弥くんの家でということもあって、私にとっては違う意味での楽しみもある。

黎弥くんの部屋に入れるという、何ともくすぐったい気持ち。


「夏喜が先に来てたから、準備してもらってる…って言っても、店から運んだやつを並べてるだけだけど」


そう言いながら私にヘルメットを渡す。

黎弥くんが被ってるのとは違う女子用なんじゃないかっていうそれに、少し違和感を覚えた。

私が手に持って止まってると、私の手からヘルメットを手に取って私の頭に被せてくれる。


「うん、似合うな」

「…え?」

「ゆき乃ちゃんに合いそうだなぁって思って買っちった!」

「えっ?」

「これがないと、ゆき乃ちゃん乗せれないし」


ニコッと笑うと、私の身体を支えて乗せてくれる。

初めて乗る黎弥くんのバイク。

大きめのバイクに跨ると、黎弥くんも乗って、


「ギュってして?」

「え?」

「落ちないよーに!ちゃんと捕まってろよ」

「う、うん」


後ろから抱き着くなんて緊張する!

でもでも、軽いハグはあっても、こんなにギュッと密着することなんて今までになくて…腕を広げて抱き着いてみると、黎弥くんの背中は思ったよりも大きい事が分かって、胸がキュンとする。


「もっと、ギュッとギュッと!」

「きゃっ」

「離したらお仕置き〜」


抱き着いていた私の手を掴んで、前に引っ張る黎弥くん。

更に私と黎弥くんの距離が縮まって…というより距離なんてなくて、心臓の音が黎弥くんの背中から伝わってしまうんじゃないかって思うと余計にうるさくなった。

走り出したバイク。

黎弥くんの背中は心地よくて、温かくて…暑い日だから人と引っ付くのも嫌になるはずなのに、黎弥くんとはずっと引っ付いていたいとも思った。




「かんぱーい!!」


黎弥くんの一人暮らしの家について、みんなでワイワイと飲み会が始まった。

もっと大人数で来てるのかと思ったら後輩の夏喜くんに、私と同じように就職して辞めたけど仲の良かった先輩の陸さん、それからコハルさんだけ。

コハルさんと陸さんは恋人同士だ。


「懐かしい顔ぶれだなぁ」

「ほんとほんと!昔はよくこうして家飲みしてたよね?バイト帰りに陸さんの家で」

「俺も陸さん家で飲みたかった〜」

「いや夏喜入ったばっかだったし、まだ高校だったし!」

「黎弥くん、なっちゃんは何なら今もアウトだよ!」

「そうだった!」


昔話しに花が咲く。

缶チューハイやらビールが次々と進んで、時間なんてあっという間に時間が過ぎていく。


「あれ?黎弥もう飲まないの?」

「いや俺もう限界っす…これ以上飲むと寝そう」

「いいんじゃね?別に」

「いやいやダメっす!ゆき乃ちゃんを送り届けなきゃダメなんで」

「アハハ!黎弥さんすげぇ真っ赤じゃん!」


お酒に弱い黎弥くんが、陸さんの誘いを断れずにまた飲む。

それを見て笑ってるなっちゃん。

もう真っ赤でギブアップ寸前の黎弥くんは「もうダメだ〜」とソファにグッタリ身体を沈めるから、また笑いが起こった。

どんな黎弥くんを見ても、胸が鳴る。

募っていく想いは、どこまで膨れ上がるんだろう。


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