涙のあとには


息を切らしてファミレスについた。

夜になると、一層窓の外から店内の様子が分かって、


「黎弥くん…」


いつもと変わらない笑顔で働いている黎弥くんが目に止まって、安心感のようなものが心の奥底から溢れてくる感覚だった。

息を整えてから入ろう。

そう思って黎弥くんを目で追っていた矢先――――


「え…」


――――黎弥くんが笑いながら手伝っていたのは、見た事ない女の子。

可愛い髪形をしていて、運ぼうとしたものを黎弥くんが代わりに受け取ってヘルプをしている。

私もよくしてもらった。

だから、きっと…あの子は新しい子で、黎弥くんは単にヘルプをしてるだけだって分かる。


「……っ、」


それなのに、なんで泣けてくるんだろう。

あの笑顔は黎弥くんの優しさだって知ってるのに、それが別の子に向けられてるだけでこんなにも胸が苦しい。

ふと窓ガラスに映った自分の姿が目に入って、お店の中のキラキラした雰囲気とは真逆の、疲れ切って泣いてる自分の姿に、また涙が零れた。

黎弥くんは大学生で、私は社会人で。

この店の中と外じゃこんなにも温度が違うんだって思うと、この先もし黎弥くんと付き合える事になったとしても、こんな風に嫉妬しちゃうんじゃないかって。


「……」


お店に入ろうとしていた身体の向きを変えてお店の裏側へと逃げた。

このまま帰ろう。

こんなんじゃ黎弥くんとは会えない。

こんなボロボロじゃ、可愛い子の前になんて――


「ゆき乃さん?何してんすか?」

「なっちゃ…」


――涙を流しながら歩く私の前にいたのは、なっちゃん。

顔を上げた私を見て、目を見開くと、慌てて駆け寄ってきた。


「何かあった?黎弥さんまだ、」

「ううん!何もない!別に黎弥くんになんて用はないよ!」

「…何かあったんすね、黎弥さんと」

「別に何もないよ…ただ……ううん、何もない」

「…ったく、あの人はなにやってんだか」


なっちゃんの横をすり抜けて帰ろうとする私の手を掴んで、携帯を取り出してどこかに電話をし始めた。

すぐに出て「お電話ありがとうございます――」という大きな声が、私のところまで聞こえてきて…その声ですぐに黎弥くんだって分かった。

お店の電話に連絡したんだ、なっちゃん。

お願いだから、何も言わないで。


「黎弥さん声でけぇっす…え、すぐ行きますって。それより黎弥さん、何やってんすか?彼女泣かせて。そんなんだったら、俺がもらっちゃいますよ?ゆき乃さん」

「えっ?」

「いや知らねぇっすけど…店の外で泣いてましたよ?黎弥さんが何かしたに決まってんでしょ…大丈夫です、俺が優しく慰めておきま…――――切られた」


呑気にそんな事を言って携帯をポケットにしまうなっちゃん。

いや、待って!

今の感じじゃ、黎弥くん来ちゃうじゃない!?


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