「ヤダ、黎弥くん来ちゃうじゃん!」
「来てほしいんじゃないんすか?」
「困るよ!こんな顔見られたくない!見せられないよ…」
なっちゃんに手を離してもらおうと思いっきり自分の方に引っ張るも、全然離してくれない。
むしろ引っ張ったせいで距離が近くなって、もう片方のなっちゃんの手が私の肩を掴んだ。
思わずなっちゃんの顔を見上げると、微かに口端が上がって――
「ゆき乃ちゃ…――ちょおおおい、何してんだよ!」
――黎弥くんの大きな声がして、なっちゃんに手を掴まれたまま振り向いた。
バイトの制服のまま店を飛び出して来たんだろうか。
むしろ手に受話器持ったままの黎弥くんが、私となっちゃんを見て、眉毛をピクッと上げたまま怒った表情でズンズンと近づいてくる。
「夏喜何してんだよ!ゆき乃ちゃんは俺のだぞっ!気安く触んなっ!」
私となっちゃんの手を掴むと、繋がってる手を引き離す黎弥くん。
黎弥くんの言葉も嬉しい――――はずなのに、さっき見た光景が頭を支配していて、
「いやっ、触らないでっ!」
黎弥くんが触れた手を、思いっきり払ってしまった。
私を吃驚した表情で見てる黎弥くん。
どうしたの?――そんな顔で。
「黎弥くんに触られたくない!あの子に優しくして触った手で触らないで!」
「ゆき乃ちゃん?」
「黎弥くんの優しさはズルいよ…誰にでも優しくて、」
「待ってゆき乃ちゃん!なんの事?何勘違いしてんのか知らないけど、俺はゆき乃ちゃんの事が――」
「可愛い子だね、あの新人さん?の女の子。黎弥くんも嬉しそうにしてたし、お似合いなんじゃない?」
自分でもどうしてこんな言葉が出てくるのか分からない。
でも、言い出したら止まらなくて、本当はそんな事一ミリも思ってないのに、黎弥くんの言葉を否定するような言葉しか出てこない。
私ってこんなに嫉妬深かったのかな。
ううん、黎弥くん相手だからこそ…黎弥くんを独り占めしたい気持ちが強くて、こんな苦しいんだ。
「それ、マジで言ってる?」
明らかに動揺して、さっきまでの目力が無くなった黎弥くん。
シンとした空気が私達を包む。
なっちゃんはただ何も言わずにそこにいるだけで、本当はこんな場面を見られたくないのに、自分の気持ちが制御できない。
「俺、ゆき乃ちゃんに伝わってるって思ってた。俺の気持ち、ゆき乃ちゃんへの気持ち…ゆき乃ちゃんは知ってるって、」
「分かんないよ!黎弥くんの気持ちなんて一度も分かったことなんてない!言ってくれた事なんてないじゃん!それなのにズルいよ…優しくして」
「ゆき乃ちゃ、」
「黎弥くんなんて大嫌い!」
私を掴もうとした黎弥くんを突き放して、その場から逃げるように走った。
また涙が溢れてくる。
全然、止まってくれない。
黎弥くん…――――苦しいよ。