「足りないよ、黎弥くん」
唇が触れる直前、パチッと目を開けた。
うおっ――と吃驚して離れた黎弥くんが、真っ直ぐ私を見下ろしていて、
「もっとして?それとも…もう起きちゃったから、してくれない?」
聞きたい事はいっぱいある。
どうして黎弥くんがここにいるのか?とか、あの時起きてたの?とか。
でも今はそんなのを後回しにしてでも、黎弥くんと気持ちを通わせたかった。
心にあった嫉妬が消えたわけじゃない。
だけど、それ以上に…――――私は、黎弥くんへの気持ちに嘘をつきたくない。
「もっと、していいの?」
「うん」
「ゆき乃ちゃん…ずっげぇ可愛いから」
今度は近づく黎弥くんの顔も、瞼を伏せる瞬間も、全部見ることができた。
ピクピクっと鼻が動いて、それもまた愛おしくて。
触れる直前、目を閉じると…――――黎弥くんの柔らかな唇がまた、私に触れた。
今度はすぐに離れない。
私の唇を軽く啄むようにして黎弥くんの唇が動いて、私の心音を高鳴らせる。
ソファで横になってる私の身体に被さるように、ソファに手をついて黎弥くんの重みを感じた。
パクッと黎弥くんの上唇を挟むようにキスをして薄く目を開けると、黎弥くんも同時に目を開いて唇を離した。
唇が引っ付いて離れる感覚が、くすぐったい。
「なんで、ここにいるの?」
「陸さんから連絡もらって…バイト終わってゆき乃ちゃんの家行った。でもいなくて…そしたら“好きな女泣かせるな”って言われて。…ごめんね?俺、」
「もう一回、言って?」
「え?」
「黎弥くんの気持ちがどこにあるのか、ちゃんと言って?」
私の言葉にフゥと息を吐くと、私の手を掴んでソファに座らせた。
真正面に膝を立てて座る黎弥くん。
視線を私と同じ高さに合わせて、つぶらな瞳をまっすぐ私に向ける。
「俺が好きなのはゆき乃ちゃんだけ…ずっと好きだった。俺が優しくするのは嫌だってゆき乃ちゃんが言ってたけど、正直そんな自覚なんてなくて…俺が下心あって優しくしたのは、後にも先にも、ゆき乃ちゃんだけなんだよっ!」
「…プッ、下心あったの?」
「あった!」
黎弥くんが嘘をつかないのは、私も知ってる。
裏表がなくて、いつでも真っ直ぐで、誰にでも優しくて――――そんな黎弥くんを好きになったんだ、私は。