そばにいたくて


私があの時、黎弥くんの言葉を遮って気持ちを踏みにじったからだろうか。

それとももう、素直じゃない女に嫌気が差したんだろうか。

どちらにしても…その答えは黎弥くんしか分からなくて、黎弥くんが来ない以上確かめようがなかった。

――確かめる勇気も持ち合わせてないけど。


「ゆき乃先輩、明日定時で上がれますかねぇ」


デスクトップからヒョコッと顔を出したハルが心配そうに声をあげる。

上の空だった私にはハルの言葉の語尾しか聞き取れてなくて、「え?」ともう一度聞き返した。


「明日ですよ、明日!ご飯行くじゃないですか」

「え、誰が?誰と?」

「まさか忘れてる!? ハルとの約束」

「……」

「ゆき乃先輩の誕生会するって!うそん!」


オーバーにリアクションするハルを放置して、自分の状況にちょっと焦った。

もうすぐだとは思ってたけど、この忙しさと黎弥くんの事考えて気持ちがぼんやりしていた所為で…――気づいたら目前に迫っていた自分の誕生日。

カレンダーを見たら間違いなく明日は私の誕生日で。

マジ!?

こんな風に気づくのって虚しい…。

虚しすぎるっ!!


「ハァ…」


気持ちが更に数メートル下に沈んだような感覚だった。

そして、この期に及んで――――黎弥くん、明日来てくれないかなって思ってる私。

顔が見れるだけで自分の誕生日を心から喜べる気がする、なんて。

自分の事しか考えられずに黎弥くんを拒否ったくせに、ここまで貪欲な自分に呆れてものが言えない。

だけど…ほんの一瞬でもいいから、黎弥くんに逢いたい。

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