――誕生日当日。
仕事はいつもと変わらず忙しかったけど、一緒に働くスタッフからお菓子とお祝いの言葉をもらって誕生日らしく過ごした。
年を重ねる毎に誕生日を迎えるのは億劫(おっくう)になる。
だけどこうして、「おめでとう」って言ってもらえる人がいるだけで違うと思う。
例え義務的な言葉だったとしても、一瞬でも私を思って口にしてくれた言葉であれば嬉しいって思うから。
せめて誕生日くらい、仕事も落ち着いてるといいなぁ。
なんて思ってた矢先――――。
「嘘っ、これ今日だっけ!?」
定時少し前、デスクに忘れられたように置いてあったファイルを手にとって冷や汗が出た。
完全に忘れてた仕事の案件ファイル。
幸か不幸か…こんなギリギリの時間に見つけてしまった。
明日の朝イチに必要な資料だから今日中に仕上げなきゃいけないわけで。
「先輩、手伝いますよ」
「ううん、すぐやっちゃう…ハル先にお店行ってて」
「でもぉ…」
「予約してるんでしょ?だったら遅れたらキャンセル扱いになっちゃう!私が行ってすぐに食べられるようにしといてくれなきゃ嫌よ?」
「は、はい!」
敬礼をしたハルは、「会社出る時に連絡くださいね!」とフロアを出て行った。
私の誕生日を祝う気満々のハルの足取りは軽やかで、バレバレのプレゼントの紙袋を揺らしてる姿を見ると笑っちゃう。
「さて!さっさと終わらせて行ってやるか」
パソコンを前に、書類データを素早く入力する。
意気込んだ言葉とは裏腹に、思いの外テンションがグッと下がって溜め息が零れた。
…この時間に黎弥くんが事務所に来る事はない。
結局、密かに切望していた『誕生日に黎弥くんの顔を見る』という最大のプレゼントを貰う事は叶わなかった。