そばにいたくて


そう思ってたのに…――――


「お疲れ、ゆき乃ちゃん」


――――事務所を出たら、目の前に黒い車が停まってた。

声を掛けられなかったら素通りしてたかもしれない車の運転席には、私が逢いたいと思ってた黎弥くんがいて。

ハンドルに片手を置いたまま、助手席の窓を下ろしてこっちを見ていた。

この状況が飲み込めなくて。

黎弥くんが車に乗ってるっていうレアな現場を目撃して、完全に頭が真っ白になってる。

超…カッコイイんだけど!


「ゆき乃ちゃん」

「…へ!? あ、はい!お疲れさまです」

「乗って?」

「……はい?」

「早くしないとオレ騒がれちゃうかも」


その言葉に、無意識に身体が動いた。

すでに中から開けられていた助手席のドアを掴んで車に乗る。

ドアを閉めてシートベルトをしようとして…――黎弥くんの笑い声にハッと我に返った。


「う、嘘つきましたね!」

「んー…何が?」

「だって!誰もいないじゃないですか!」


窓の外に目を向けても人ひとり歩いてない。

例えそこに人がいたとしても…私はスタッフなんだから、何とでもなるはずなのに。

いや、でも私用車だったらマズいか。

え…これって黎弥くんの車なのかな?


「ゆき乃ちゃん…変な顔」


プッと笑う黎弥くんは、いつもと変わらなくて。

じゃあどうして、あれ以来私の前に現れなかったんだろう。

事務所に来てないってわけじゃなかったのに。

ジッと黎弥くんの方を見つめてたら、ハンドルに両腕を置いたまま黎弥くんも私をジッと見つめてくる。

ドキドキドキ――――また左胸がギュッとした。

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