【side ゆき乃】
颯太が連れて行ってくれたお店は、映画館からすぐ近くの場所だった。
昼どきなのに並ばなくて済んだのは…颯太がその店を予約してたからで、私を待たせない方法を考えてた事を感心した。
そして料理も、まぁまぁ美味しかった。
ちゃんと下調べしてんじゃん。
私に気に入られようと頑張ってる感満載だけど。
それでも…そんな颯太を見て悪い気なんてしなかった。
「ご馳走様でした!」
そう言って、颯太の手を握る。
驚いた顔して「まだ繋いでくれるの!?」とでも言いたそうな表情をする颯太。
これに意味なんてないから、あまり気にしなくていいのに。
そう思いながらも、何だか初々しい颯太の反応を見て楽しんでいた。
「颯太ってさ、会社でも人気あるじゃん?」
「いや…」
「若い子が言ってたよー!モテるでしょ」
「俺、ゆき乃さん以外興味ないです」
「へぇ」
「え!? そんな反応っすか?」
「…颯太って今まで、年上と付き合った事ある?」
突然の質問にキョトンとした表情で私を見つめる颯太。
パチパチと数回瞬きをした後――「ないっす」と素直に答えた。
うん、だろうな。
何となくそんな気がした。
だから…たぶん私への気持ちは「憧れ」も含まれてるんじゃないかって思った。
本人は気づいてないかもしれないけど、そういう"好き"もある。
憧れからの好きっていう想いが悪いって言ってるんじゃない。
むしろ誰だって一度はある願望なんじゃないかなって思った。
ただ、そういうのは…手に届かないから輝いて見えるんだって。
「ゆき乃さんは…」
「あ?知りたい?私の過去」
「……」
「ま、教えないけどね!」
ベーッと舌を出して颯太の手を引っ張って歩いた。
颯太は何も言わなかったけど、繋いでいる手に力が入ったのは分かった。