【side ゆき乃】
アイスを食べさせてあげると、一々照れる颯太。
こういう反応が何だか新鮮で。
「颯太のもちょうだい?」
「うん」
口を開けると、一瞬戸惑って…だけどすぐに顔を綻ばせて私の口にアイスを運んだ。
チラッと颯太の後ろに視線を移すと、颯太の知り合いの女が私達を羨むような目で見ていた。
――――女の事は、女が一番よく分かってる。
あの女がただの同級生じゃない事なんてすぐに分かった。
颯太を見る目が違う。
これは何でそう思ったか…と言うより、女の直感で。
一度でも颯太を男と意識した事がある目だなって。
颯太の慌てようからしたら十中八九そうだと思ったし、颯太が「同級生」と言った時のあの女の顔を見たら、もう間違いねぇって思った。
まぁ…元カノだろうなって。
それも、女から颯太を振ったんじゃないかって。
「美味しい!颯太がくれるからかなぁ」
「え?」
「なーんてね!」
「そうだと…嬉しいんすけどね」
口元を隠すように照れ笑いをする颯太。
「あ!」
そう言って立ち上がり颯太に顔を近づけた。
私の声と行動に驚いた颯太は呆然として私を見つめていて、離れた後も瞬きせず固まっていた。
それからすぐに、顔が赤くなっていく。
「ついてたよ、アイス」
そう言って唇に触れた人差し指を舐めたら、やっと颯太の目が動いた。
――もう、あの女はこっちを見ていない。
「…え、あっ…すすすすいません」
「颯太、もう行こうか!」
立ち上がって颯太の手を引っ張る。
去り際に颯太の元カノを見たら、悔しさを交えた視線を颯太に向けていた。
当の颯太は――――全く気づいてないみたいだけど。
「ねぇ、さっきの子さ」
颯太と手を繋ぎなら店を出た。
話題を掘り返された颯太は焦ったのか、無意識に手に力が入っていた。
「悔しそうにしてたわね」
「え?悔しい?」
「颯太のこと!逃した魚は大きかったって思ってたんじゃない?」
「……」
「元カノでしょ」
「…え!?」
「いいんじゃない?女にそう思わせられる男になったって事でしょ?」
「……」
「私…そういう男、嫌いじゃないわよ」
颯太の顔を覗き込んで笑ったら、颯太が大きく目を見開いた。
あの女と颯太の関係は、あくまで私の憶測だけど。
悔しそうに颯太と私を見てたのは間違いないから…きっと颯太がそう思わせる男になってたんだなって思った。
私と颯太がキスしてたって思っただろうな、あの女。
男と来てくるせに、昔の男にすぐに目移りするやつなんて…きっとロクな女じゃないだろうし。
ま、颯太の過去に私が兎や角言う事じゃないけどね。
「…嬉しいっす」
今日は颯太の照れ顔ばっかみてる。
まぁ会社とは全然態度が違うからだろうけど。
私も今日は…なんだかんだ言ってたくさん笑ったような気がする。