夢のような時間も必ず終わりがある。
外に出ると空の色が変わって、同じ街でも違う顔を見せ始めていた。
ここから先は、恋人達の時間。
だから私達は――――ここで終わり。
「デートは、もう終わりよ」
「……」
「楽しかった?」
「はい…幸せ過ぎて…」
私を離すまいとしているのか、颯太の手に力が入った。
その手から颯太の想いが真っ直ぐ伝わる。
「駅まで送って」
静かに歩き出した私達。
颯太から醸し出される雰囲気の所為なのか、それとも日が沈んで顔を変えた薄明の空の所為なのか。
駅に着いた時、「家の近くまで」そう言った颯太の言葉を断れなかった。
――結局、最寄駅まで手を繋いだままだった。
「じゃあここで!」
「ゆき乃さん、俺…」
向き合ったまま、颯太が私を真っ直ぐ見つめた。
離さなきゃいけないと思ってるけど離せない――――それが形となって、颯太の手は私の指あたりを軽く掴んだまま。
「俺…ゆき乃さんの事本気です」
「……」
「今日デートして、改めてそう思いました」
「……」
「好きです、ゆき乃さん」
颯太の手に力が入る。
こうして真正面から颯太の想いを聞いたのは、初めてだった。
真剣な想いを伝えられて、嫌な気なんてしない。
だけど――――
「颯太、私は…」
「年下やからですか?」
「……」
「それだけが理由だなんて、俺…納得できひん」
「…颯太」
「こんなに好きなのに」
颯太が最後の言葉を発したのと同時、身体が少し引っ張られた。
気づいた時は、身体全体が何となく温かくて、程よい力で包み込まれていた。
颯太の腕が、私の背中に回ってる。
…意外としっかりしてんだ。
抱き締められながら、そんな事を思っていた。
「俺じゃ、ダメですか?」
絞り出したような声が耳元で聞こえる。
もうこの真っ直ぐな気持ちに、向き合わなきゃダメだって思った。
無碍(むげ)にしていいものではない。
深く息を吸い込むと、その体勢のまま――初めて、自分の気持ちを言葉にした。
「…ごめん」