人を好きになったら、誰だって両想いを望むと思う。
例え…好きな人が別の人を想っていたとしても。
それでも好きを貫こうと思った理由の奥底では、「いつかはきっと…」って気持ちが少なからずある。
好きな人の幸せを願う事が一番理想だけれど、やっぱり自分だって幸せになりたいって。
――――その気持ちを隠しながら、ずっと見てきた。
朝、素敵な笑顔に出会えただけで嬉しかったし、触れられた時には胸の奥がキュンとした。
私の気持ちが本気だって気づいて欲しい…。
そう思っていても、今の関係を壊すのはそう簡単じゃなくて。
焦りがなかったかって言えば嘘になる。
好きな人がいるっていうのは分かってた。
それでも、私は漠然と思っていたんだ…――この朝は、ずっと続くって。
「おはようございます!ヨシユキ先輩!」
今日も同じ電車だった。
だけど少し立ち位置が離れちゃってて…近くで喋れなかった。
それでもヨシユキ先輩は私に目配せしながら、時折「大丈夫?」と口パクで押し潰されそうな私を心配してくれた。
その優しさはいつもと変わらなくて、この光景は明日も来るって思ってた。
もちろんそれは、私の気持ちも私達の関係も…なに一つ変わっていない朝を、私は想像していた。
「……え?」
思わず、聞き返すような言葉が口を次いで出た。
駅に着いて一緒に改札を出て並んで会社に向かっていた私達。
仕事仲間の話とか、本当に他愛もない話をしていた。
一息ついた後、「あ、そうだ」と前置きしたヨシユキ先輩。
自然と顔を向けた私の先には、少し照れたような…初めて見るヨシユキ先輩の笑顔があった。
その笑顔の理由を考える間もなく、
「ゆき乃ちゃん、俺ね…彼女できた」
嬉しそうに話すヨシユキ先輩に、私は思わず「え?」と聞き返した。
それは決して聞こえなかったからじゃなくて。
――聞き間違いだよね?
そういう気持ちが含まれた一文字だった。