届かぬ想い03


人を好きになったら、誰だって両想いを望むと思う。

例え…好きな人が別の人を想っていたとしても。

それでも好きを貫こうと思った理由の奥底では、「いつかはきっと…」って気持ちが少なからずある。

好きな人の幸せを願う事が一番理想だけれど、やっぱり自分だって幸せになりたいって。


――――その気持ちを隠しながら、ずっと見てきた。

朝、素敵な笑顔に出会えただけで嬉しかったし、触れられた時には胸の奥がキュンとした。

私の気持ちが本気だって気づいて欲しい…。

そう思っていても、今の関係を壊すのはそう簡単じゃなくて。

焦りがなかったかって言えば嘘になる。

好きな人がいるっていうのは分かってた。

それでも、私は漠然と思っていたんだ…――この朝は、ずっと続くって。


「おはようございます!ヨシユキ先輩!」


今日も同じ電車だった。

だけど少し立ち位置が離れちゃってて…近くで喋れなかった。

それでもヨシユキ先輩は私に目配せしながら、時折「大丈夫?」と口パクで押し潰されそうな私を心配してくれた。

その優しさはいつもと変わらなくて、この光景は明日も来るって思ってた。

もちろんそれは、私の気持ちも私達の関係も…なに一つ変わっていない朝を、私は想像していた。






「……え?」


思わず、聞き返すような言葉が口を次いで出た。

駅に着いて一緒に改札を出て並んで会社に向かっていた私達。

仕事仲間の話とか、本当に他愛もない話をしていた。

一息ついた後、「あ、そうだ」と前置きしたヨシユキ先輩。

自然と顔を向けた私の先には、少し照れたような…初めて見るヨシユキ先輩の笑顔があった。

その笑顔の理由を考える間もなく、


「ゆき乃ちゃん、俺ね…彼女できた」


嬉しそうに話すヨシユキ先輩に、私は思わず「え?」と聞き返した。

それは決して聞こえなかったからじゃなくて。

――聞き間違いだよね?

そういう気持ちが含まれた一文字だった。


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