私が聞き取れなかったんだと思ったヨシユキ先輩は、もう一度同じ言葉を繰り返した。
…それが、私にとって残酷な知らせであるとも知らないで。
きっとその想い人を思い出しながら言ったヨシユキ先輩の表情は、これ以上にない幸せが溢れていた。
「そ、うなんですね!」
「うん」
「ゆき乃ちゃんにはちゃんと、俺の口から報告したかったんだ」
そう言ってニコリと笑ったヨシユキ先輩。
胸がギュウっと締め付けられて、苦しい。
…笑え、私。
無意識に止まった私に、ヨシユキ先輩も歩くのをやめた。
少し視線を下に落として――
「今日は失恋記念日ですよぉ」
――そう言って勢いよくパッと顔を上げ、頬の筋肉をフルに使って笑ってみせた。
私を見ていたヨシユキ先輩の表情が、私を見て笑顔に変わる。
ずっと見てきたこの笑顔を崩したくない。
困らせたいなんて思わない。
…ヨシユキ先輩が幸せなら、それで…。
「おめでとうございます!」
「うん、ありがとう」
「もし一人に戻ったら…私が彼女になってあげましょうか?」
「あっは!そんな事にならないように頑張るよ」
「…大丈夫です、ヨシユキ先輩なら。だってヨシユキ先輩素敵ですもん!」
私の言葉に、ヨシユキ先輩の顔が更に明るくなった。
ヨシユキ先輩は笑って、「またそういう事言う〜…でも、ゆき乃ちゃんのその言葉に自信持てたんだ」そう言って私の頭をポンと軽く叩いた。
そっか…。
私の恋心は届かなかったけど、言葉はちゃんと届いてた。
だから…これでいいって思えた。
私が出した結論は、きっと間違ってなんていないって。
踏ん張るために、グッと服の袖を掴んでいた。
滲みそうになる景色に全神経を集中させて堪えていた。
ヨシユキ先輩も、エレベーターで一緒になった夏輝も、廊下で会ったなっちゃんも…いつもと変わらない。
――だから私は、ちゃんと笑えてると思う。
誰にも気づかれずに、私の気持ちは消化されていくんだって…そう思ってた。