ウソの笑顔01


【side 颯太】


ゆき乃さんとのデートの後、俺はずっと浮かれてた。

別れ際、初めてちゃんと断られたけど…ゆき乃さんを諦めるなんて選択肢は俺には持てなかった。

最初から俺を見てないことは分かってた。

それでも追いかけたこの気持ちは、生半可な想いじゃない。

好きな人がいると言ったゆき乃さん。

だけどその顔は翳(かげ)りが見えて、いつも笑ってるゆき乃さんも…そういう気持ち抱えてたんだって初めて知って。

――俺が心から笑顔にしてあげたい、そう思った。

だから、「本気見せて」と言われた事が嬉しかった。

まだ想い続けて良いって事だし、雰囲気も悪くなかったし、このまま俺が…――――そんな事ばかり考えてた。

ゆき乃さんが誰を想っているのかは分からなかった。

だけど、それを知ってもどうにも出来ない。

俺自身をゆき乃さんに見て認めて貰わなきゃいけないって。

そう思ってた矢先――


「……」


――想定外の光景が目に飛び込んだ。

むしろ何で想定出来なかったんだろうって思う。

ゆき乃さん、本気だって言ってた。

ずっと見てたって言ってた。

俺だってずっとゆき乃さんを見てたのに……何で気付かなかったんだろうって思った。

少し先で、向かい合って話をしている二人が見える。

笑い合ってるのに、その光景は違和感があって…。

風に乗って小さく届く二人の会話を聞いて、思わずグッと拳を握った。


その時初めて、ゆき乃さんの本気が向けられてる相手が誰だか分かったんだ。


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