【side 颯太】
ゆき乃さんとのデートの後、俺はずっと浮かれてた。
別れ際、初めてちゃんと断られたけど…ゆき乃さんを諦めるなんて選択肢は俺には持てなかった。
最初から俺を見てないことは分かってた。
それでも追いかけたこの気持ちは、生半可な想いじゃない。
好きな人がいると言ったゆき乃さん。
だけどその顔は翳(かげ)りが見えて、いつも笑ってるゆき乃さんも…そういう気持ち抱えてたんだって初めて知って。
――俺が心から笑顔にしてあげたい、そう思った。
だから、「本気見せて」と言われた事が嬉しかった。
まだ想い続けて良いって事だし、雰囲気も悪くなかったし、このまま俺が…――――そんな事ばかり考えてた。
ゆき乃さんが誰を想っているのかは分からなかった。
だけど、それを知ってもどうにも出来ない。
俺自身をゆき乃さんに見て認めて貰わなきゃいけないって。
そう思ってた矢先――
「……」
――想定外の光景が目に飛び込んだ。
むしろ何で想定出来なかったんだろうって思う。
ゆき乃さん、本気だって言ってた。
ずっと見てたって言ってた。
俺だってずっとゆき乃さんを見てたのに……何で気付かなかったんだろうって思った。
少し先で、向かい合って話をしている二人が見える。
笑い合ってるのに、その光景は違和感があって…。
風に乗って小さく届く二人の会話を聞いて、思わずグッと拳を握った。
その時初めて、ゆき乃さんの本気が向けられてる相手が誰だか分かったんだ。