【side ゆき乃】
午後のマストの仕事を終えて、「休憩いってきまーす」とフロアを出た。
無意識に溜め息が漏れる。
ずっと仕事をしていたら余計な事も考えなくて済む。
だけどずっと全神経を駆使して、考えないようにするのは…凄く凄く疲れた。
「フゥ…」
ダメだ。
仕事から離れると、一人になると…考えてしまうのはヨシユキ先輩の事。
「ヨシユキ先輩」って心の中で思っただけでも、鼻の奥がツンとして目頭が熱くなる。
失恋は過去にも経験している。
だけど、こうして予期せぬタイミングで、何の心構えも出来ていない状態での失恋は…結構ダメージが強い気がした。
誰にも言えなかった想い。
ヨシユキ先輩本人でさえ、私の気持ちは知らない。
なっちゃんは知ってるんじゃないかと思ってるけど、それは本人から何かを言われたわけじゃないから分からない。
それに知っていたとしても、縋りたいとは思えなかった。
誰も知らない私の想いは…きっと私一人で消化しなきゃいけない。
今まで通りを望むなら、私が今まで通りの私でいなきゃダメだって。
グッと唇を噛んで目を閉じ、涙が引くのを待った。
「…戻ろ」
休憩室を出て、フロアに戻ろうと廊下を歩く。
気分転換にジュースでも買おう。
そう思って少し寄り道をしようとしたら――
「ゆき乃さん、ちょっと」
――このフロアにいないはずの颯太が、私の手首を掴んで引っ張った。
いきなり現れたから心臓が飛び出るかと思った。
突然の事で、何も言葉が出てこなくて。
そして何より…真剣な顔して私を連れ出す颯太に、私はただついて行くしかなかった。
私を引っ張る大きな背中を、ただ呆然と見つめていた。