泣いていいよ01


颯太は、社内資料の保管庫の扉を開けると、私を引っ張ったままその部屋へと入って行った。

…何だろう。

こうして私を引っ張ってまでこの場所に来る理由が分からない。

奥の棚の辺りまで歩き進んだ颯太は、ゆっくりとその足を止めた。

それに合わせて、私も止まる。

振り返った颯太は…――――何故か凄く悲しそうな顔して、そして何だかちょっと怒ってるみたいに眉間にシワを寄せていた。

え、何よ。


「どうしたの颯太…こんな場所まで連れてきて」


まじまじと颯太を見つめてそう言うも、颯太は表情一つ変えなくて。

私の手を掴む手に力が入った。

向かい合って私の手を掴む颯太に…あの日の告白を思い出す。


「ええですよ」

「は?」

「ゆき乃さん…泣いてもええよ?」


いきなり何を言うんだこのオトコは。

そう思ったのは一瞬で、その後すぐに…まさか…って思いが駆け巡る。

でもそれを私は頭の中で否定した。

有り得ないって。

颯太が…知るはずないもん。


「な、何言ってんの?何で私が泣くのよ、意味分かんない」

「意味分かんなくないって。そのままっすよ…ゆき乃さん、ずっと泣きたいって顔してるじゃないっすか!俺には分かります!」

「……」

「ちゃんと笑えてるって思ってます?俺には泣いてるように見えますよ」

「…そんな」

「泣ける場所、なかったんでしょ?だからゆき乃さん我慢して…泣きたいのに泣けないんでしょ?」


颯太の言葉が、呪文みたいに思えた。

何でこんな事言うのか、何を知って言ってるのか分からないけど。

それでも颯太の言葉が――――私の孤独な心を温めて溶かしていく。

颯太が更に強く手を握り締めた。

そこから颯太の強い気持ちが、肌を通じて伝わってくる。

それでも私は、堪えようとした。

弱さなんて見せるものか!って。

失恋でこんな風に情けない姿なんて…見せたくないって。


「……」


でも、何か言ったら涙が溢れそうで、下唇を噛み締めるしかなかった。


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