颯太は、社内資料の保管庫の扉を開けると、私を引っ張ったままその部屋へと入って行った。
…何だろう。
こうして私を引っ張ってまでこの場所に来る理由が分からない。
奥の棚の辺りまで歩き進んだ颯太は、ゆっくりとその足を止めた。
それに合わせて、私も止まる。
振り返った颯太は…――――何故か凄く悲しそうな顔して、そして何だかちょっと怒ってるみたいに眉間にシワを寄せていた。
え、何よ。
「どうしたの颯太…こんな場所まで連れてきて」
まじまじと颯太を見つめてそう言うも、颯太は表情一つ変えなくて。
私の手を掴む手に力が入った。
向かい合って私の手を掴む颯太に…あの日の告白を思い出す。
「ええですよ」
「は?」
「ゆき乃さん…泣いてもええよ?」
いきなり何を言うんだこのオトコは。
そう思ったのは一瞬で、その後すぐに…まさか…って思いが駆け巡る。
でもそれを私は頭の中で否定した。
有り得ないって。
颯太が…知るはずないもん。
「な、何言ってんの?何で私が泣くのよ、意味分かんない」
「意味分かんなくないって。そのままっすよ…ゆき乃さん、ずっと泣きたいって顔してるじゃないっすか!俺には分かります!」
「……」
「ちゃんと笑えてるって思ってます?俺には泣いてるように見えますよ」
「…そんな」
「泣ける場所、なかったんでしょ?だからゆき乃さん我慢して…泣きたいのに泣けないんでしょ?」
颯太の言葉が、呪文みたいに思えた。
何でこんな事言うのか、何を知って言ってるのか分からないけど。
それでも颯太の言葉が――――私の孤独な心を温めて溶かしていく。
颯太が更に強く手を握り締めた。
そこから颯太の強い気持ちが、肌を通じて伝わってくる。
それでも私は、堪えようとした。
弱さなんて見せるものか!って。
失恋でこんな風に情けない姿なんて…見せたくないって。
「……」
でも、何か言ったら涙が溢れそうで、下唇を噛み締めるしかなかった。