このタイミングで乗り込んできたのは、颯太だった。
私を見て、なっちゃんを見て、それから視線は腕へと移った。
ニコリと笑っていた顔が曇る。
笑顔が引き攣ったものに変わる。
その理由は手に取るように分かったけど、私はなっちゃんから腕を離さなかった。
「夏喜さんお疲れ様です」
なっちゃんに挨拶した颯太。
そのまま――――何故か、私となっちゃんの間に入るようにグイグイと身体を押し込んできた。
自然と離れた腕。
何してんだ!?
そう思って顔を上げたら、笑顔の颯太と目が合った。
「なに邪魔してんだよ颯太」
なっちゃんの声が聞こえる。
颯太は私を方を向きながら、
「別に邪魔なんてしてませんよ。ほら、エレベーターは詰めて乗りましょうって言うじゃないですか」
飄々(ひょうひょう)とそう言ってのけた。
言わねぇよ!
ていうか他に誰も乗ってないじゃないか!
颯太を睨み上げると、一瞬怯んだものの…「ゆき乃さんは夏喜さんのちゃうし」と強気な発言をした。
「そうでしょ?」
「まぁそうね」
「だから俺が隣にいても…」
「誰のものでもないけど、颯太のものになる事は天地がひっくり返ってもないわよ?私、年下となんて有り得ないから!エッチくらいならいいけど〜」
颯太の目があからさまにガッと開いた。
驚きなのかショックなのかは分からないけど…そんな反応に付き合ってる時間なんて私にはない。
別に颯太にどう思われても、喩(たと)えこれで嫌われても別にいいって思ってる。
エッチだけだなんて、本当にそう思ってるわけじゃない。
私はそんなに軽い女じゃない。
だけどそんな事、わざわざ言わなきゃ分からないオトコなんてマジで願い下げよ。
ちょうど着いたエレベーターをなっちゃんの腕を掴んで降りた。
どこに行くつもりだったのか知らないけど、颯太は降りて来なかった。
――――颯太が私を誘ってきたのは、その二日後だった。