12

切原は駅前の広場の人混みに、香織の姿を見つけた。

「待たせたな!」

「ええ、7分遅刻よ。」

フィット感のある紺色のトップスに、ふわりと膝下まで広がるハリのある生地のスカートは、いかにも育ちの良いお嬢さんらしい装いだ。

耳の上には髪留めがあって、少しは自分のためにお洒落をしてくれたのだろうかなんて期待してしまう。

(ていうか今日の新宮、めちゃくちゃ可愛いな。)

可愛いのはいつもだし、私服も良いだろうなと思ってはいたが、彼女の破壊力は切原の予想を遥かに超えてきた。

(…やばい、なんか急にドキドキしてきたかも。)

切原はごまかすように頭を掻いた。

「今日、雰囲気違うのな。」

「ああ、私服だものね。」

彼女が動くと、スカートの裾がわずかに翻った。

「良いじゃん。その…、似合ってる、と 思う。」

しどろもどろになりながら、やっとそれだけ言うことができた。

可愛いとか綺麗とか、もっと他に言いようはあるだろうに素直に出てこない。

「何照れてるのよ。

そんな顔されたら…何か、困るわ。」

香織は少し頬を赤らめて、ばつが悪そうに髪の先を指で捻っている。

切原が歩き出すと、香織も横に並んだ。

風に流されて彼女の微かに甘い香りが切原の鼻を擽るだけで、どうにかなりそうだ。

切原は変な空気を振り払うように無駄に明るい声を出した。

「今日はさ。ボウリング行こうと思ってんだ。

新宮の腕前はどんなもん?」

「えーと…。

私、ボウリングはしたことがないわ。」

「えっ、一回もか?」

香織はこくりと頷いた。

「それなら尚更やってみねえとな!

庶民の遊びも結構楽しいぜ。」

「私をなんだと思ってるのよ。

まあいいわ。教えてくれる?」

「もっちろん!任せな。」

「楽しみね。」

そう言って微笑む香織の横顔を独り占めしていることが嬉しくて、切原は意気揚々とボウリング場へ向かった。




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