「やりぃ!」
「うう、10本差かあ…。」
圧勝かと思われた勝負は思いの外白熱し、香織も切原も全力で楽しんでいた。
「悔しい…。パフェ食べたかった…。」
しょんぼりする香織もなかなかレアで可愛い。
はっと無意識に手を伸ばした自分に気づく。
(やべ、今思わず…!)
切原は慌てて手をしまった。
勢いで香織の頭を撫でかけていたのだ。
バレないように、ばっと香織に背を向ける。
(あんな子供みたいにしょぼんとするもんだから…!
あーくそ!)
ギャップの破壊力に、切原は完全にいいようにされていた。
これが無意識に発動されてるんだから、どうしようもない。
香織は百面相する切原を見て首を傾げた。
「それで、切原はどこに行きたいの?」
「あーえっと、…あのさ。」
急いで心を落ち着け、咳払いをした。
(やばい、いざ言うの結構恥ずいな…。)
でもこういうのはちゃんと言わないといけない気がして、茶化さないことにした。
覚悟を決めて香織の目を見ると、彼女は不思議そうに見つめ返してきた。
あの丸い瞳に、自分はどう映っているのだろう。
「来月の10日、夏祭りに行こうぜ。」
さすがの香織にも、少し意味合いが違って聞こえたらしい。
彼女は驚いたように目を見開いた。
「…私と?」
「そう言ってるだろ。」
香織は何か考えているようだったが、少ししてからもう一度切原の方を見て答えた。
「ちょうど琴の演奏会が終わって落ち着く時だし、いいわよ。」
「やった!」
切原は嬉しいと同時に安堵した。
もし断られたり気持ち悪がられたりしたら、生きて帰れなかったかもしれない。
「私と出かけたいなんて、切原って変わってるのね。」
「そうか?」
「そうよ。…でも、楽しみにしてるわ。」
微笑んだ香織に、また心臓の音が煩い。
きっかけは一目惚れだったが、香織が笑ったり怒ったりするのを知る度に、どんどん"好き"が膨らんでいく。
切原は彼女と過ごす時間を本当に楽しいと感じていた。
(新宮もそう思ってくれてたらいいけどな。)
その真偽は、今の切原には分からない。
ただ、彼女が切原に見せる笑顔は嘘ではないと、そう感じられるだけで十分だった。