切原は真田と幸村を真似て浴衣に袖を通した。
「それにしても、赤也もやるね。
まさか俺たちよりも先に香織を誘ってるとは思わなかったよ。」
左右の前を逆に重ねる切原に、幸村は自分の浴衣を指さしながら言った。
「賭けに勝ったんでね。
それがなくても、誘おうとは思ってたんスけど。」
それを見て左右の重ねを直すと、今度は内側がきちんと奥まで入っていなくて裾がズレる。
真田は早々に着終わると、切原が浴衣に絡まっているのを見てため息をついた。
切原の後ろに回り、背の真ん中と浴衣の中心を合わせてやる。
「香織が応じたのも意外だったがな。
何だかんだで、お前には気を許しているらしい。」
真田は切原に端折りを持っているよう指示した。
「似たもの同士だもんね。」
幸村もいつのまにか着終わっていた。
「そうっスか?
あいつは俺と違って、育ちの良いお嬢様って感じに見えるッスけど。」
結局は両腕を開いて真田に着付けてもらいながら、切原は首を傾げた。
幸村と真田は互いに顔を見合わせて笑っただけで、切原の質問には答えてくれなかった。
「てか、前から気になってたんスけど…。
新宮って、副部長のこと好きなんじゃないッスか?
いっつも兄様兄様って。」
「だったらどうするの?勝負でもするのかい?」
幸村は何故かうきうきした声で言う。
真田は切原の腰に帯を当て長さを調整していた。
「煽るな、精市。
…そうだな、俺たちは家族同然で育ってきたから…。
あの感じはいつものことだが。」
「んじゃ、少なくとも副部長はそういう気はないってことッスよね?」
「ああ。香織は妹のようなものだ。」
「よかった〜。」
ほっと切原の表情が緩んだ。
真田が貝の口を結び終えたので、鏡の前に立ってみる。
和服が似合う真田ほどではないが、綺麗に着せてもらったからか我ながら見栄えが良い。
幸村はぽんと切原の肩を叩いた。
「まあどちらにせよ、当たって砕けた時は教えてくれ。」
「砕ける前提ッスか…。」
はあ、と切原は項垂れた。