19

「あら、なかなか似合うじゃない。」

切原は玄関を出てすぐに身動きが取れなくなった。

香織の浴衣姿に衝撃を受けたからである。

そこに待っていた香織は、白地に淡い黄色や桃色の和柄が入った浴衣を纏っていた。

長い髪は低い位置で編み込んで纏められ、普段は見えないうなじが露わになっている。

彼女が動くたびに、白い肌に後れ毛がちらついた。

時が止まったように動かない切原を、幸村はつんつんとつついてみる。

「あーあ、固まっちゃったね。」

「?切原?」

香織が切原の顔を覗き込むと、彼は「うわっ!」とのけぞった。

不思議そうにする香織と目が合う。

「やっば…。」

顔を真っ赤にして額に手を当て天を仰ぐ切原に、香織は首を傾げ幸村は腹を抱えて笑った。

切原ははっと我に返ると、がしっと香織の手を掴んだ。

「いいか!俺から絶対に、離れんなよ!」

「ど、どうしたのよ。急に。」

切原は混乱しすぎて、照れながら怒っていた。

(こんなの一瞬でナンパされちまう…!)

そのままの勢いでずんずんと歩き出す。

「絶対だぞ!」

「何よそれ。フリ?」

「ちげえよ!」

……!!

(ていうかこの手、どうしたらいいんだ?!)

今になって、切原はつい勢いで香織の手を握ってしまったことに気がついた。

離したらいいのかもしれないが、もうお祭りに向かう人たちで道が混んできている。

せっかく繋いだから離したくないし、繋ぎ止めていないと本当にどこかに行ってしまいそうな気がして、やっぱり握り直した。

顔が赤いことも、取り乱していることも、カッコ悪いからバレたくなくて、香織の顔が見られない。

香織は手を引かれるまま黙ってついてきていた。

もしかしたら、怒っているのかもしれない。

強引に手を引っ掴まれたことや、早足で歩かせたことを怒っているのかも。

それなら文句の一つでも言ってきそうなものだが、彼女は何も言わなかった。

そんな不安が湧き上がってきた時だった。

(…あれ、今。)

香織の手に力が込められたのがわかった。

外から見ても分からないくらい僅かに、でも確かに彼女は手を握り返していた。

切原だけがその感触を知っていた。

日が落ちてくると、吊り下げられた提灯がぼんやりと当たりを照らし始めた。

人混みの雑踏の中で、香織との間の心地よい沈黙が2人を繋いでいるような気がした。

切原が歩く速度を緩めると、香織は隣に並んだ。

切原の視線に気づいた彼女がこちらに向けた目線がかち合う。

何か言うかと思ったが、彼女はただ照れたように目を伏せただけだった。



幸村は切原と香織から少し離れたところで真田に囁いた。

「ねえ、俺たち居ないことになってるよね。」

「言うな、精市。

いい雰囲気のようだし、そっとしておいてやろう。」

真田はは赤也のお父さんか何かなのだろうかとつくづく思う。

(まあ、見守ってやりたいのは俺も一緒だけど。)

「揶揄うのはまた今度かな。

今日くらいは許してあげないとね。」

つまらなけど、と言う言葉とは裏腹に、幸村は優しい目で二人を見ていた。




top