「しっかし、すげえ人だな…。」
道の両端には屋台が並び、狭い道に人が密集してゆっくりと進んでいる。
沢山の人に押しやられ、いつのまにか真田と幸村の姿は見えなくなっていた。
香織も人混みに揉まれ、自然と切原の息遣いが感じられる距離になっている。
いまだにしっかり繋がれた手を確認した。
離していたら、本当に逸れてしまっていたかもしれない。
「切原は毎年お祭りに来るの?」
色んな音がして、他愛ない話をするにも自然と声が大きくなる。
「毎年じゃねえけど…友達とかと来たりな。
去年は部活の先輩達と8人くらいで来たけど、まあ途中でバラバラになったね。」
各々が好きな物を買いに行ったり遊びに行ったりするので、最終的には2-3人ずつに分散していたことを思い出した。
「先輩達と仲が良いものね。
切原は何か食べたいものとかある?」
「そりゃ、焼きそばに唐揚げ、かき氷…。
イカ焼きもいいなあ。
…あっ。」
切原はとある屋台の前を通りかかると、目を輝かせた。
「これやろうぜ!射的!」
小さな子どものようにはしゃぐ切原に香織は思わず頬が緩んだ。
「いいわよ。」
射的屋のおじさんにお金を払うため、切原は惜しみながらも仕方なく手を離した。
まだ自分の手の中に香織の体温が残っていて、今まで手を繋いでいたことを改めて意識した。
手を離すと香織が自分の側にいるか急に不安になって、何度も確認した。
ちゃんと切原の隣に立っている香織は、並んでいる景品の中の一つに目を引かれたようだった。
「…ねえ切原、あれ取れたらさっき言ってたごはん全部奢ってあげる。」
香織が指さしたのは、"15"と書かれた小さな札。
15番の景品は、のほほんとした顔をした丸いペンギンのぬいぐるみだった。
的になる"15"の札は他と比べてもかなり小さい。
「ふーん、なかなか狙い甲斐がありそうじゃん。
よーし、見てろよ!」
姿勢を低くして銃を構え、しっかりと狙いを定める。
(こういうのは負け無しなんだよな、昔から。)
引き金を引くと、弾は見事に的に命中した。
三発ある弾を全て命中させてようやく、"15"の札は倒れた。
「おっし!」
香織も嬉しそうに飛び上がった。
「すごいじゃない!難しそうだったのに。」
「へへ、俺様に不可能はねえの。
…ほらよ。」
「ありがとう。」
ペンギンを渡すと、香織は蕩けるような笑顔でそれに顔を埋めた。
また一つ、彼女の知らない表情を知った。
(こんなカオもするんだな…。)
まんまるとしたペンギンを抱えてご機嫌な香織は、普段のクールな印象からはかなりギャップがある。
にこにことご満悦な香織に、切原も嬉しくなった。