「…ここまで来たら流石に人も少ねえな。」
屋台の立ち並ぶ通りを抜け、お祭りの中心から少し離れたところにある小さな神社の階段に、切原と香織は並んで腰を下ろした。
「花火が始まったみたいね。」
木が立ち並ぶ暗い影の隙間から鮮やかな光が覗くと、少し遅れて大きな音が胸に響いた。
花火が上がる度に、2人の顔が明るく照らされる。
「こうして切原と花火を見ているなんて、なんだか不思議な気分だわ。
転校してくる前は、兄様と精市以外とは関わらずに過ごすつもりだったから。」
しみじみとそう話す香織の横顔に、切原は見惚れていた。
「あの、さ。」
思わず言ってしまいそうになる。
どうしたの、と首を傾げる香織に、切原はやっぱり今じゃないと踏みとどまった。
代わりに、別のことを聞いてみる。
「新宮は、自由になったらどうすんの。」
「実はもう決めてあるの。
私ね、テニスを始めるのよ。」
香織はふふっと楽しそうに笑った。
「これまで止められていた分、思いっきり頑張るの。
上手くなって、いつか精市に一泡吹かせてやるのが目標よ。」
「そりゃまた、随分大きく出るねえ。」
「私は本気よ。これまで散々揶揄われた仕返しをするんだから。」
はは、と切原は困りながら笑った。
香織は持っている巾着の赤い紐をくりくりと指に巻き付けては解いて遊ばせている。
彼女は花火を見上げたまま静かに言った。
「…ねえ、切原。高校生になったら、私にテニスを教えてくれる?」
花火がまた一つ上がって、香織の顔を照らす。
切原は驚いて、花火を見上げる香織の横顔を見た。
(…それはこの先も、一緒にいてくれるってこと?)
同時に、嬉しくて顔がとんでもなく緩んでしまいそうになるのを慌てて押し込むと、にやりと笑った。
「いいけど、高くつくかもよ。
なんたって俺は立海の2年生エースだからな!」
「じゃあ、代わりに私は貴方の勉強を見てあげる。
悪くない話でしょ?」
そんな時間がきてくれるなら、どんなに楽しいだろう。
「…いいな、それ。」
切原はしみじみと言った。
「そうでしょ。」
香織が満足そうに笑う。
二人の間に、少しの沈黙が流れた。
ふと肩に重みを感じて視線をやると、香織が切原の肩に頭をもたれさせていることに気がついた。
(わ、これやばい…。)
静かな中に、自分の心臓が煩く鳴っている気がする。
夏の湿気た空気に香織の匂いが混ざって、切原の鼓動を煽った。
(新宮も同じようにドキドキしたりしてんのかな…。
俺だけだったらカッコ悪いな。)
切原は薄暗さで顔色がバレないことに心底感謝した。
花火の光が、二つの影を階段に映し出しては消えてを繰り返していた。