「俺さ、新宮が自由になった時、隣にいるのが俺だったら良いなって思ったんだ。
新宮のそばには部長も副部長もいるし、あの人たちの方がもっと上手くやれるのかも知れねえけど…。
それでも、アンタにテニスを教えるのは俺が良い。」
いつのまにか、香織の目は涙に濡れていた。
「3年の最後にアンタの目標が達成されるまで待つからさ。
そうしたら、俺と付き合ってくれよ。
アンタのことが好きなんだ。
初めて会った時からずっと。」
香織は目と鼻を赤くしながら、声を絞り出していた。
「良く…そんな、恥ずかしいこと、言えるわね。」
切原は香織の頬に手を当て、ぼろぼろと溢れ落ちる涙を親指で拭った。
「そういうこと言うから、余計恥ずかしくなんだって。
…返事は?」
「…仕方ないわね。」
「は〜、可愛くねえの。」
切原は香織の顎を片手で持ち上げ、触れるだけのキスをした。
至近距離で目が合うと、香織は安心したように目を細めた。
彼女の睫毛に乗った涙の雫が、瞬きで砕けて光るのが見えた。
「さよならしなくて済んで、よかったわ。」
香織は切原の胸に頬を寄せた。
安堵の涙がまた一筋、彼女の頬を伝った。
「待っててやるよ。だから、アンタも待ってて。」
切原の腕の中で、香織が一度頷いた。
静かな部屋に、グラウンドの喧騒が遠く聞こえた。