「えっ…!」
翌日の朝礼で、転校生として紹介されたのは香織だった。
思わず声を上げた切原の方を、クラスメイトと教師が一斉に見た。
(同じクラス!俺ツイてる!)
切原は思わず机の下で小さくガッツポーズした。
「新宮香織です。よろしくお願いします。」
香織は自己紹介のあと一礼し、社交辞令の微笑みを見せた。
切原にとってはさらに幸運なことに、彼女の席は切原の隣だった。
姿勢を正して静かに座った彼女の横顔を眺めているだけでも、鼓動が速くなるのを感じる。
不意に香織がこちらを見たのでどきりとした。
「ごめんなさい、教科書を見せて貰えるかしら。
まだ全部は持っていないの。」
「お、おう!いいぜ。」
机を動かしてくっつけると、余計に香織との距離が近い。
切原はノートに記される綺麗な字と、滑るように動く指先を思わず目で追っていた。
伏せた目元はいつまでも見ていられる気さえする。
(睫毛長ぇ…。)
彼女のことが気になって、授業の内容なんていつも以上に耳に入ってこなかった。
好きとか嫌いとか、そういうのでこんなに浮ついた気持ちになるなんて、自分でも思っていなかった。
(これがいわゆる、一目惚れってやつね…。)
これまで感じたことのない衝動に、完全に振り回されているのが悔しい。
自覚すると余計恥ずかしくて、顔色に出ていないか心配になった。
頬杖をついている手も、心なしか熱い気がする。
切原は隠すように窓の方を向いた。