切原は約束通り、部室にあるビデオをこっそり持ち出してきた。
香織に真田の試合を見せること、それが勉強を教えて貰った時に切原が出した交換条件だった。
香織は人気のない屋上で段差に座って切原を待っていた。
「ほらよ。」
「ありがとう。
兄様がテニスしてるところを見るのは久しぶりだわ。」
香織は嬉しそうにビデオを受け取り、電源を入れた。
さりげなく、切原もその隣に座る。
「そんなに副部長が見たいならさ、部活見に来たらいいじゃん。」
来てくれたら、切原のモチベーションも上がること間違いなしだ。
真田目当てに来られるのは癪だが、我ながらナイスアイディアだと思った。
しかし香織は首を振った。
「そうしたいけど…。
平日は習い事で忙しいから、放課後はすぐ帰らないといけないの。」
「そっか…。」
がっくりと項垂れた切原をよそに、香織は動画を再生し始めた。
映し出されたのは、数ヶ月前に行われた練習試合。
相手校の部長と真田が対戦している。
試合が始まった瞬間、真田は凄まじいリターンを決めていた。
「見た?今の!」
香織が不意にこっちを見たので、隣で画面を覗き込んでいた切原と急に顔が近くなった。
(ちょ、不意打ち…。)
切原は反射的に勢いよく顔を逸らした。
香織はそんな切原の動揺を気に留める様子もなく、はしゃぎながら動画を見ている。
切原がどきどきしている心臓を落ち着けてから、切原は前から気になっていたことを質問した。
「アンタさ、なんでそう本性隠そうとすんの?」
切原が人気のない屋上を指定したのは、これを聞きたかったからでもあった。
「えーと、そうね。切原には話しても良いかしら。」
香織は手元のビデオを一時停止した。