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「彼女が今日から新しくマネージャーに加わることになった。

みんな、よろしく頼む。」

立海大のテニス部員、そしてレギュラー達の視線が一斉に自分に向けられ、真琴は少し緊張していた。

思った以上に、部員達の視線は懐疑的に感じられた。

「天澤真琴です。よろしくお願いします。」

ぺこりと頭を下げる。

「あの、一つ質問しても宜しいですか。」

眼鏡をかけた男子部員が挙手した。

立ち位置的に、レギュラーの1人だろうと真琴は思った。

昨日3人からレギュラーメンバーがどんな人たちなのかは一通り聞いていたが、さすがに大まかな特徴くらいしか覚えられていない。

「ああ。構わないよ。」

彼は真琴に向かって綺麗にお辞儀をしてから話し始めた。

「初めまして。柳生比呂士と申します。

以後、お見知り置きを。」

柔らかく微笑んだ彼の表情を見て、真琴は少しほっとした。

そういえば、ジェントルマンって呼ばれてる人がいるって言ってたっけ。

多分、彼がそうなのだろう。

「質問というのは、彼女の装いについてです。

何故、彼女は我々レギュラーと同じジャージを着ているのですか?」

他の部員達も困惑しざわつく中、真琴は一人納得していた。

(これってレギュラー用のジャージだったんだ。

急に来たマネージャーがレギュラー用の服着てたら、戸惑うのも当然だよね。)

きっと、部員たちはこのジャージに特別な思いがあるのだろう。

何だか悪いな、と思うと同時に、自分のジャージに着替えさせた幸村をほんの少し恨んだ。

幸村は涼しい顔で質問に答える。

「彼女には、マネージャーというよりコーチを務めてもらおうと思っている。

それも、レギュラーの専属としてだ。

だからレギュラージャージを着て貰っている。」

部員達が一層ざわつき始めた時だった。

レギュラーの1人がラケットを地面に叩きつける大きな音と共に、辺りはしんと静まり返った。

彼は目を血走らせ、声を荒げる。

「は?…何言ってんスか、部長。

こいつが、テニスで俺らより上ってことッスか?」

今にも掴みかかって来そうな勢いで、切原は真琴を睨みつけた。

(彼が、噂の切原くんか。)

レギュラーの中に1人だけいる同級生の名前を、真琴は覚えていた。

切原赤也。少し乱暴な一面があって、3人も手を焼いていると話していた。

けれどそれ以上に、テニスプレイヤーとして期待もしていると。

切原の問いに、幸村はあっさりと答える。

「ああ、そうだよ。

赤也、お前は彼女に敵わない。」

その言葉に、流石に真琴もぎょっとした。

切原は屈辱にわなわなと肩を震わせている。

この雰囲気でこれ以上切原の神経を逆撫でないで欲しいと真琴は切に思った。

「上等だよ。…なあ、アンタ。

今すぐ俺と試合しようぜ。」

「えっ、私はいいけど…。」

真琴が幸村の方を見ると、幸村はただ黙って頷いた。

明らかに3人だけ落ち着き払っているところを見るに、この状況は幸村、柳と真田の思惑通りらしい。

(直接喧嘩になるよりは良いか…。)

「わかった。いいよ。」

真琴は前向きに捉えようと割り切って、ラケットを手にコートに向かった。

その様子を見て耐えかねたように、色黒のハーフらしい男子生徒が幸村に異を唱えた。

「おい、お前ら止めねえのか?

今の赤也を相手にしたら、いくらなんでもあいつ怪怪我しちまうぞ。」

「心配するな、ジャッカル。天澤なら問題ない。」

真田の言葉に、ジャッカルは口をつぐんだ。

皆が固唾を呑んで見守る中、真琴と切原の試合が始まろうとしていた。