ネットを隔てて切原と向かい合った真琴は、幸村の時とは違う空気の重みを感じていた。
切原は余裕の表情で真琴を見下ろしている。
「俺はコートを貰ってやるよ。せいぜい頑張んな。」
真琴は首を横に振った。
「ううん。サーブは切原くんからお願い。」
「はあ?せっかくハンデやろうってのに。
…可愛い顔に傷がついても知らねえよ。」
「大丈夫。心配してくれてありがとう。」
真琴は少しずつ、幸村の意図を理解し始めていた。
幸村は敢えてレギュラージャージを着せた真琴を紹介し、切原の反感を買ったのだ。
冷静さを失った切原は必ず、彼女を叩きのめそうとするだろう。
それも部員全員の前で。
全力を出した赤也に勝てば、晴れて真琴はレギュラーに匹敵する実力の持ち主として認められるという寸法だ。
この試合は、真琴の存在を部員に納得させるために3人が用意した舞台だったのだ。
(前もって言っておいてくれないのが、意地悪だよね。)
ある意味、この役割を担うに値するかどうかを試されていたのかもしれない。
幸村はこの部に、特にレギュラーには生半可な気持ちで踏み入らせたくないのだろう。
「んじゃ、遠慮なく…潰させてもらうよ。」
切原がトスを上げ、真琴はコートを強く踏みしめた。