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「肩書きはマネージャーだけど、

真琴には主にレギュラーの練習の球出しや練習試合の相手になって貰おうと思っているんだ。

思ったことがあればどんどん言ってくれ。

俺たちにとっても、普段と違う相手からのアドバイスはありがたいからね。

それと、手が空いた時は彼女を手伝ってやって欲しい。」

幸村の隣には、髪をポニーテールに結った活発そうな女生徒がいた。

彼女はにこっと笑って真琴に挨拶した。

「あたしは3年の瀬川衣月。

テニス部のマネージャーです。よろしくね。

さっきの試合見てたよ。あの切原に勝つなんてすごいじゃん!

可愛いのにめちゃくちゃ強いからびっくりしたよ。」

瀬川の人懐っこい笑顔に歓迎され、真琴は心底癒された。

「ありがとうございます。よろしくお願いします。」

「じゃあ、さっそく色々説明するね。

幸村、天澤ちゃん借りてくからね〜。」

瀬川は真琴を連れてさっさと部室に移動し、テキパキと仕事をしながら説明を始めた。

「ここに物品は殆ど置いてあるからね。

試合の時はこのカゴをセットで持っていけばOK。

あと飲み物はここで作って、なくなったら適宜補充。

とりあえず、手伝って貰おうかな。」

「はい!」

(瀬川先輩ってすごい人なんだな。

話しながら手も全く止まってないし、どんどん周りが片付いていく…。)

瀬川は手際良く仕事をこなしながら、真琴の緊張が解れるよう気遣ってくれていた。

「へえ、じゃあ3強と幼馴染ってこと?

…あ、あの3人がうちで一番強いから、そう呼ばれてるんだけど。」

「はい。精市くんが私をテニスに誘ってくれて。

それで私もテニスを始めたんです。」

「そうなんだね。あの3人に仕込まれたらそりゃあ上手くもなるか。

でもさ、無理しないようにね。

うちの男子部ほんっと、めちゃくちゃに強いやつばっかりだからさ。

あ、あといじめられたら教えてよね。叱り飛ばすから。」

瀬川は普段から男子部の中で活動しているだけあって、かなり逞しい。

彼女の闊達とした裏表のない性格が、部員から信頼されているのも分かる気がした。

「ふふ、ありがとうございます。」

「…ところで、なんで幸村だけ下の名前で呼んでんの?」

瀬川はドリンクボトルを洗い終え、シンク周りの掃除を始めた。

真琴は畳み終えたタオルを順番に棚にしまっていく。

「えっと…そう呼んで欲しいって言われたんです。

いつだったかはよく覚えてないんですけど、小さい時に。」

「ふうん、なるほどねえ…。」

未だかつて、幸村が女子を下の名前で呼んでいるところを見たことがなかった。

それだけで、誰にだって彼女が特別だということが分かる。

(わかりやすいなあ、幸村。当の本人には全然伝わってないみたいだけど。)

瀬川はにやにやしながら真琴の話を聞いていた。

あの容姿、そしてテニスが上手いこともあり、幸村は当然モテる。

勿論というのも可笑しいが、ファンクラブもある。

だが他の部員たち以上に、幸村にはこれまで恋愛関係の噂が流れることは一切なかった。

だからこそ、彼に恋愛感情というものがあったことそのものに瀬川は驚いていた。

(…というより、天澤ちゃんが居るから他には興味なかっんだな。)

瀬川が一人で納得した時、噂をすれば幸村が部室の扉を開けた。

「真琴、そろそろこっちの練習相手を頼めるかい。」

「あ、うん。瀬川先輩、ありがとうございました。」

「はーい。また後でね。」

ひらひらと手を振り真琴を見送った瀬川は自分の仕事に戻った。

(天澤ちゃんなかなか鈍感そうだし、モテるだろうからなあ。

幸村も苦労すんじゃないかな。

まあ、今後を楽しみに見守るとしよう。)

瀬川は鼻歌を歌いながら次の作業を始めた。