「真琴、お疲れ様。」
部活終わり、真琴は校門で待っていた幸村の元へ駆け寄った。
部室では部員が着替えるため、真琴と瀬川は校舎の更衣室まで戻って着替えを済ませていた。
制汗剤の涼やかな香りが幸村の鼻を掠める。
さっきまで纏められていた髪に跡が残っていた。
「ありがとう、待っててくれて。」
「もう暗いし1人で帰ったら危ないよ。
家も近いんだし、部活の日は送って行くからね。」
毎日一緒に下校する、たったこれだけのことができる日を幸村がどれほど待ち望んでいたことか。
「そうなの?精市くん、なんかボディーガードみたいだね。」
真琴は可笑しそうに笑った。
「初めての部活はどうだった?
みんな一癖あるやつばかりで、気疲れしてないかい。」
「ううん、楽しかった。
同世代の人と思いっきりテニスができるってやっぱり良いね。
…実は、向こうではみんな私に負けるのが嫌って言うから、あんまり本気を出せてなかったの。
ここのレギュラーの人たちは本当に上手だね。」
「ふふ、真琴は本当にテニスが好きなんだね。」
「うん。…上手になりたくて、練習したからね。
でもまだまだ足りないみたい。」
真琴は少しだけ遠くを見ていた。
「…真琴。」
「なに?」
春の夕暮れは少し肌寒い。ざあっと冷たい風が吹き抜けた。
(…ここで、全て打ち明けてしまおうか。)
無邪気に首をかしげる彼女を見て、幸村はふとそんな衝動に駆られる。
数年ぶりに再開した片想いの人は以前の面影を残しながらも成長し、一層魅力的になっていた。
そして、今日部員達の好奇の目に晒されたことは、幸村が望んだこととはいえ少し彼を不安にさせた。
奪われてしまう前にいっそ…と囁く声を、幸村は振り払う。
無理に事を運んで、友達でも居られなくなっては元も子もない。
「…そうだ。明日、日曜日だけど空いているかい。」
「うん。今のところは何も予定はないよ。」
「行きたいところがあるんだけど、付き合ってくれるかな。」
「いいよ。じゃあ、待ち合わせは…。」
「迎えに行くよ。11時までに支度をしておいて。」
ちょうど真琴の家の前に着いたので、2人は歩みを止めた。
「わかった。楽しみにしてるね。」
真琴は嬉しそうに顔を輝かせた。
ひらひらと手を振ると、そのまま門の中へ消えていった。
真琴を見送ると、幸村はうーんと唸って眉間に皺を寄せる。
「…誰にでもああなんだよなあ。」
そうやって笑顔を振り撒いてたら、色んな虫が寄ってきてしまう。
現に今日の部活中だって、何度も色んな部員達が赤面しているのを見かけた。
幸村の心配は尽きない。
彼の今日何度目かわからない溜め息は、宵闇に溶けて消えていった。