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ある日の昼休み。

(やばいやばいやばい。)

切原は猛スピードで廊下を駆け抜けていた。

かなり酷い点数で追試にかかった彼は今、副部長である真田に追いかけられている。

(前の時に散々怒られて、みっちり教えてもらってからのコレだからな〜。

今回は絶対ただじゃすまねぇ。捕まったら終わりだ!)

勢いよくコーナーを曲がったところで、不意に人影が現れた。

赤也は急ブレーキをかけたが、勢い余ってぶつかってしまった。

「わっ!!…わりぃ、大丈夫か?!」

「う、うん…。」

よく見ると、ぶつかった相手は天澤だった。

そして副部長の怒声がすぐ近くまで来ている。

「なあ、一瞬匿ってくれ!頼む!」

「えっ?!どういう意味…。」

「すぐ分かるって!」

それだけ言うと、切原は手頃な教室に入った。

真琴が首を傾げていると、すぐに真田がやってきた。

「天澤か。赤也を見なかったか?」

「切原くん?えーと…。」

なるほど、こういうことか。

真琴は状況を察すると、少し考えてから下の階を指さした。

「さっき、そこの階段を降りて行ったよ。」

「そうか。わかった。」

真田は急いで階段を降りて行った。

真田の足音が遠のくと、切原が額を拭いながら教室から出てきた。

「ふ〜助かった!あれに捕まると長いからな〜。」

「切原くん、何したの?」

「ん?ああ、いつものことなんだけど。

テストの点が悪くてさ、追試になっちゃって。

俺、どーにも英語は苦手なんだよなぁ。」

いつものことなんだ、と真琴は苦笑した。

「でも、すぐに部活で会うから同じことじゃない?」

「んーまあそうなんだけど。

けど、部活中の方が他の先輩が助け舟出してくれたりで、ちょっと短く済むんだよな。

んで、すぐ練習にも入れる。俺はもう学んだのだよ。」

ふふんと得意そうにする切原。

「切原くん、多分学ぶとこ間違ってるよ…。」

「痛いとこつくねぇ。…あ、そーだ!」

ははは、と頬を掻いていた切原は、何を思いついたのか急に目を輝かせた。

「天澤、今度の追試に向けて勉強教えてくれよ。

部活のあと、ちょっとで良いからさ。」

「えっ、いいけど…。先輩達に教えてもらった方が良くない?」

切原はぶんぶんと首を横に振った。

「良いわけねえだろ〜。3強が凄い剣幕で俺をずーっと見張るんだぜ。

プレッシャーでそれどころじゃねぇんだよ。」

あの3人は三者三様に怖い。思い出しただけで身震いする光景だ。

「真田くん以外は怒ってるとこあんまり見たことないけど…。

確かに、怒らせたくない人達ではあるね。」

その点に関しては、真琴も同意見だった。

普段穏やかな人ほど、怒ると手がつけられないものだ。

「だろ?!な、頼むよ〜、この通り!

俺を助けると思って!」

切原が頭上で手を合わせてあまりに必死に拝むので、真琴はつい笑ってしまった。

「うん、私は構わないよ。」

「よっしゃ!恩に着るぜ!んじゃまた部活でな。」

「また後でね。」

真琴は切原を見送り、自分も更衣室に向かった。

(どうか、今日のお説教が短めで済みますように。)

意味もないかもしれないが、真琴はそう祈りながら部活へ向かった。