部活終わり、柳が着替えていると幸村が部室に入ってきた。
「蓮二、お疲れ様。」
「ああ。」
幸村はベンチに腰を下ろしてふう、とため息をついた。
真琴と少し残って乱打していたらしい。
「…それで、最近はどうなんだ?」
「どうって?」
幸村はわざとわからない振りをしたが、柳は逃すつもりはなかった。
「天澤とは順調なのか、という意味だ。」
「順調、ね…。」
幸村は手元に視線を落とす。
柳からは幸村の表情は見えなかった。
「俺自身、どうしていいか分からないんだ。
自分の気持ちにも、真琴の姿や行動にも、振り回されてばかりで。」
あーあ、と幸村は自嘲するように言った。
「何でもそつなくこなせるような顔して、神の子とか呼ばれてさ。笑えるよね。
好きな人に想いを伝えることもできないなんて。」
以前から幸村の恋愛相談の相手である柳は、これまでも彼の深いため息を何度も聞いてきた。
幼い頃から真琴に想いを寄せていた幸村は、周囲から持て囃されている割に恋愛に不慣れだった。
「そんなに簡単な事じゃないさ。
だが、あまりのんびりしてもいられないぞ。
彼女の異性人気は、校内でも指折りの数値だ。」
実際は、どう見ても幸村が真琴のことを好きなので、本格的に手を出そうなんていう勇者はいなかったのだが。
しかし、真琴が異性に好意的な目で見られていることは事実だった。
「そうだよね…。
あんなに可愛いってだけでも注目を浴びるのに、テニスまで強いし…。
しかも誰にでも無防備に優しいし……。悩ましいなあ。」
「俺の統計では、注目の理由は顔が可愛いが48%、性格が良いが33%、胸が大きいが17%…。」
「ちょっと。そんな卑猥な視点で真琴を見てるのはどこのどいつ?」
幸村はむっとして聞いてきた。
彼の素直な反応が面白くて、いつも柳はつい余計なデータを伝えてしまうのだった。
「精市はそんな視点では見ていないのか?」
「…うるさい。」
幸村は拗ねてそっぽを向いてしまった。
彼のこんな姿を知っているのは、ごく少数の気を許している者たちだけだ。
「今日も送っていくんだろう。
帰りに手でも繋いでみたらどうだ。」
「うーん…。」
「手なんか握ったら最後、我慢できなくなりそうで怖いんだ。
蓮二はそんなことないのかもしれないけど。」
「それはどうかな。
だが、そうなったら逆に押し切ってしまうのも有りだと思うぞ。
覚悟の上で臨めばいい。」
柳は不敵に笑って見せた。
「蓮二の落ち着きが羨ましいよ。
俺は一つ一つに取り乱してしまっていけないな。
…さて、そろそろ帰ろうか。また相談に乗ってくれるかい?」
「ああ。俺で良ければいつでも話を聞こう。」
「苦労をかける。」
幸村は苦笑し、柳と共に部室を後にした。