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真琴はすでにコートに入っているというのに、手塚はなかなか来なかった。

彼が宇都美と何か話しているのが見える。

最終的に宇都美が手塚に何か言いながら抱きついた後、漸く彼はコートの方へ歩いてきた。

その光景に真琴を含む立海のメンバーは唖然としていた。

(…なんか恥ずかしくて、見ていたくないな。)

真琴は雑念を振り払うようにぶんぶんと頭を振り、ネット越しに手塚と対峙した。

「良い試合にしよう。」

手塚はそれだけ言って、サービスラインまで下がって構えた。

真琴もベースラインの後ろへ下り、サーブの構えを取る。

手塚の後ろで、今度は丸井に怪我をさせた2人が宇都美と戯れているのが目に入った。

気になることは沢山あるが、今は試合に集中しなければならない。

(勝ったら丸井先輩のこと、謝ってもらおう。)

真琴は大きく息を吐き、トスを上げる。

サーブの打球音とともに、試合が始まった。



流石に、手塚の技術は群を抜いていた。

洗練された技術と冷静な判断で、真琴の球を的確に返してくる。

真琴もコートを駆け回り、手塚の打球を丁寧に処理していく。

両校とも、固唾を飲んで試合の行く末を見守っていた。

2人の実力は概ね拮抗していたが、試合が進むにつれ徐々に真琴が押し始めていた。

後半になるほどに、手塚の返球に甘さが目立つ。

(精度が落ちてきてる…。これなら!)

真琴が深く打ち込んだ打球にロブで対応した手塚だが、回転が足りずアウトとなってしまった。

これが決着の一打となった。

その瞬間、切原がガッツポーズをして飛び跳ねる。

「よっしゃあ!天澤、よくやったぜ!」

真琴は息を切らしながらも、切原を見て微笑んだ。

幸村が真琴のそばまで来てタオルを手渡した。

「お疲れ様、真琴。」

「ありがとう。」

青学のレギュラー達は、目の前の光景に驚愕していた。

「まさか、手塚が負けるなんて…。」

大石は愕然としていた。

手塚は自分の掌をじっと見つめ、少しの間何か考えているようだったが、すぐに桃城と菊丸を呼び寄せた。

丸井もコートの中心へ歩いてくる。

2人は気まずそうに丸井の正面に立った。

「丸井先輩にしたこと、謝って下さい。」

真琴は厳しい表情でそれだけ言った。

「…悪かったよ。」

「すいません。」

「もう動くようになったからいいけどよ。

情けねえことすんなよな。」

丸井はいつになく静かな口調でそう言った。

2人が項垂れたところへ、宇都美が楽しそうにやって来た。

幸村と丸井は、一瞬くらりと視界が揺れるのを感じる。

(何だ、今の…?)

「どうかしましたか?」

真琴は心配そうに2人の顔を覗き込む。

「いや、大丈夫。」

幸村はなんでもない、と言うように笑顔を作って見せた。

宇都美は青学の3人に甘えるような声で話しかけた。

「手塚くん、お疲れ様。

試合も終わったんだし、向こう行こ。

菊丸くんと桃城くんも。みんないないと寂しいよ〜。」

「ああ、すぐ戻ろう。」

手塚の表情が緩む。それは厳格な手塚国光のイメージとは程遠いものだった。

「うんうん!じゃあ次俺が隣ね〜。」

「あ、狡いッスよ菊丸先輩!」

ぽかんとしている真琴達を取り残して、4人はコートの外へ出て行った。

こうまであからさまにいちゃいちゃされると、見せつけられているこっちが恥ずかしい。

「…何だあれ。」

3人は呆然として、しばらくその場から動けずにいた。