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練習を終えてレギュラー達がミーティングをしている間、真琴と瀬川は後片付けをしていた。

「ボールしまってきますね。」

「ありがと〜。」

真琴はボールの入ったカゴを持って倉庫へ向かった。

幸村が言ったことが気になっていた。

"あのマネージャーに気をつけて。近づかない方が良い。"

(精市くん、何かされたのかな…。)

もう辺りは暗く、倉庫から漏れる灯りが眩しく見えた。

カゴを置いた真琴が踵を返すと、目の前に宇都美が立っていた。

「えっ、…。」

びっくりしたのと、警戒心から少し後ずさった。

宇都美はそんな彼女の様子にはお構いなしに、にこにこしながらずいっと近づいてきた。

「真琴ちゃん、今日はお疲れ様。

女の子なのに、手塚くんに勝っちゃうなんて凄いね。」

「あ、ありがとうございます。」

また宇都美の香りがする。

真琴はそれが何となく居心地悪く感じられていた。

「あのね、お願いがあるの。」

宇都美の薄い唇が引き上がった。

その笑顔は端正だったが、恐ろしくもあった。

「幸村くん、私に頂戴?」

「…え?」

何を言われたのか分からなかった。

宇都美は両手で頬を包み、きゃぴきゃぴと楽しそうに続ける。

「だって彼、すっごく綺麗なんだもの。

でも、貴女は彼の特別なんでしょ?

だから、一応伝えておこうと思って。」

「精市くんが…あなたのものになる?」

宇都美のものになるとはどういう意味だろうか。

幸村が青学の選手達のように、宇都美の虜になってしまうこと?

それこそあり得ない。

幸村は宇都美に良い印象は持っていないはずだ。

それなのに…この胸騒ぎは何なのだろう。

真琴の背中に、嫌な汗が伝った。

「そうよ。それで私、真琴ちゃんのことちょっと気に入らないのよね。

ごめんね?」

話が見えてこない。戸惑っている真琴の前で、宇都美は地面にぺたんと座り込んだ。

「きゃああっ!」

宇都美の悲鳴が合宿所に響いた。