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幸村は目覚ましの音で目を覚ました。

真琴が横にいては、緊張で眠れないかも…なんて思ったのも束の間、疲れていたのか目が覚めた時には朝だった。

体を起こして隣を見ると、真琴はまだぐっすり眠っている。

幸せそうな寝顔に少し気が引けるが、幸村は真琴を揺すり起こした。

「真琴、そろそろ起きないと。」

「んー…。」

むくりと起き上がった真琴は、目こそ開いているもののぼんやりとどこかを見つめている。

「……み…。」

「どうしたの?」

「髪…といて…。」

彼女は思いの外寝起きが悪いらしい。

幸村は思わず吹き出した。

真琴のポーチの横に、櫛が置かれているのを見つけて手に取る。

「じっとしてるんだよ。」

彼女の後ろに座り、柔らかい髪に丁寧に櫛を通す。

そうしているうちに真琴は目が覚めてきたのか、今度は慌て出した。

「…えっ、あれ?精市くん?

ご、ごめんね!自分でやるから…!」

「ここまでやったし最後までやるよ。

今日はポニーテールにする?」

段々楽しくなってきた幸村は、真琴の手首からヘアゴムをするりと抜き取った。

「は、はい。お願いします…。」

真琴は恥ずかしいのか、顔を両手で覆ってため息をついた。

「本当にごめんね。いつも侍女さんにやってもらってるから、つい…。」

幸村はくくっと堪えきれずに笑った。

「起き上がるなり虚空を見つめて「髪といて」って…びっくりしたよ。

真琴ってなんでもできるのに、朝は弱いんだね。」

「うう、恥ずかしい…。これまで隠してきたのに…。」

髪の隙間から覗く耳が赤く染まっているのが見えた。

「それはそれで可愛いけどね。

……ここをくるっと…。

はい、できたよ。」

幸村は真琴の後ろ姿をスマホで撮影して真琴に見せた。

低めのポニーテールの結び目に、三つ編みがぐるりと巻かれたアレンジがされている。

「精市くんすごいね。可愛い髪型。

もしかして、普段からやってるの?」

「まさか。初めてだよ。」

見様見真似だが、我ながら上手くできたと幸村は思った。

「それならすっごく器用なんだね。ありがとう。」

真琴が笑顔で振り向くと、ポニーテールがそれに合わせて揺れた。

「ほら、支度をしておいで。きっと虫もいなくなってるよ。

もうすぐ朝ごはんだから、遅れないようにね。」

「うん。」

彼女はすっと立ち上がると、ぱたぱたと部屋の外へ出て行った。

…かと思うと、すぐに帰ってきて扉の隙間から顔を出した。

「…さっきのこと、秘密にしてね。」

「うーん、どうかなあ。」

「もう、意地悪!」

真琴はふいっとそっぽを向いて、出て行ってしまった。

幸村は緩んだ顔で身支度を始めた。

(あんな可愛い姿、誰にも教えるつもりないに決まってるじゃないか。)

思い出しただけでも顔がにやけてしまう。

自分のこんな表情こそ誰にも見せられないな、と幸村は思った。