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午前の練習が終わり、昼食の時間になった。

真琴と瀬川は片付けや午後の練習の準備ため、20分ほど遅れて食堂に到着した。

「…あれ?」

食堂はもぬけの殻だった。彼らが居たと思われる場所に、食べたままのお皿が人数分置きっ放しにされていた。

不自然な光景に、瀬川は首を捻る。

「なんでみんな居ないんだろ〜。

ここに来るまでには誰とも会わなかったし、部屋に帰ったとか?」

「それなら、もう少し片付いていそうですけれど…。」

普段ならほとんどの選手が食器を洗い場まで運んでくれる。

いくら早く食べ終わったとはいえ、全員がお皿を放置していくとは考えられなかった。

「それに、何だろうな…この匂い。

甘いんだけど、なんか気に食わないっていうか。」

瀬川はジャージの裾で口元を覆った。

「前と同じ…。」

真琴も口元に手を当てた。

以前この香りを感じた時は宇都美の香水だと思っていた。

けれど、香水の香りが食堂全体に充満し、しかもこれほど濃く残るとは考えにくい。

外の空気を吸おうとドアを開けると、少し遠目に立海のジャージを着た人の姿を見つけた。

「切原くん!」

真琴が声を掛けると、切原はこちらに気づいた。

ひとまず部員に会えてほっとした真琴は、切原のそばへ駆け寄る。

途端に、彼の目線が鋭くなった。

「なんだアンタか。目障りだから消えてくんない?」

「えっ…。」

吐き捨てるようにそう言うと、切原はさっさと歩いて行ってしまう。

「切原!お前、どうしたんだよ…。」

瀬川の問いに振り返ることもなく、彼はコートの方へ消えて行った。

「瀬川先輩、あの香り…。」

真琴の言葉に、瀬川は頷いた。

「うん。切原からも同じ匂いがした。

なーんか嫌な感じがするねえ…。

とりあえず、私たちもご飯を食べたらすぐ戻ろう。」

2人は食堂横のテラス席で手短に食事を済ませ、テニスコートへ急いだ。

胸騒ぎが強くなり、自分の鼓動が速くなるのを感じる。

この先に何か恐ろしいものが待ち受けているような、そんな気がしてならない。

(どうか、勘違いでありますように…。)

今はただ、皆の身の安全を祈ることしかできなかった。