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テニスコートに着いた2人は、息を乱しながら辺りを見回した。

「誰も…いない…?」

テニスラケットやボールは練習終わりのまま置いてあるのに、両校の選手の姿はなかった。

コートの周囲を見て回っていた瀬川が倉庫の扉を開け、その前でぴたりと足を止めた。

彼女の視線は何かに釘付けになっている。

中から、楽しそうに笑う複数の声が聞こえていることに気づいた。

「瀬川先輩…?」

「だめだ!」

真琴がおそるおそる中を覗き込もうとするのを、瀬川が止めた。だが、一歩遅かった。

「……あ…。」

そこには幸村を含め、立海の選手達が全員揃っていた。

皆思い思いに談笑しているのは、いつも通りの光景だ。

その中心…幸村の腕の中に、宇都美が居ること以外は。

宇都美は真琴を見て、勝ち誇ったように笑みを浮かべた。

「遅かったね。…ねえ、見て。

幸村くん、もう私のものになっちゃった。」

幸村は宇都美を抱く腕の力を強め、更に身体を密着させた。

真琴は、胸の奥の方がじりじりと焦げるように重くなるのを感じた。

どろりと黒いものが渦巻いて、呼吸と一緒に溢れ出てしまいそうになる。

こんな感情は初めて知った。

「藍菜のことは、俺が守るよ。」

幸村は宇都美の髪を撫でた。

「また誰かさんに騙されて、藍菜が一人で傷つくのは嫌なんだ。

…わかったら、もう俺達に近づかないでくれるかい。」

そう言って、彼は真琴を冷たく睨んだ。

混乱のあまり、真琴の思考は停止していた。

涙が一筋、頬を伝う。

瀬川は見ていられなくて、真琴をぎゅっと抱きしめた。

瀬川の腕の中で、真琴声を殺して泣いている。

それを庇う彼女の瞳もまた、潤んでいた。

「真田!柳!お前らあんなに仲良かったじゃん。

おかしいとおもわないの?!」

「無駄よ。」

宇都美がそう小さく言ったのが、瀬川の耳には確かに聞こえた。

真田は2人を見下ろして言う。

「何がおかしいのだ。天澤は我々を騙して、宇都美に嫌がらせをしていた。

当然の報いだろう。」

「その通りだ。

こんな奴と親しくしていたなどと、思い出しても虫唾が走る。」

瀬川は愕然とした。

あんなに真琴を大切にしていた3人が、ここまで彼女を否定するなんて。

(…あいつ、みんなに何を吹き込んだんだ?)

宇都美はくすくすと楽しそうに瀬川達のやりとりを見ている。

趣味の悪いやつだ。

瀬川は彼女の表情に嫌気が差した。