「時間がないから手短に話す。
今は混乱していると思うが、よく聞いてくれ。」
逆光で、乾の表情はよく見えない。
てっきり痛めつけられると思っていた2人は、何も言えずにただ驚くばかりだった。
「宇都美が使っているのは特殊な香だ。異性を惑わす特殊な色香で、他人を意のままに操っている。
あの香の発生源を壊せば、みんなを元に戻すことができる。」
乾は後ろをちらりと見やった。
「詳しい話は夜に。今は身の安全を優先してくれ。
さあ、早く行け。」
「天澤ちゃん、行こう!」
瀬川は真琴の手を引いて走り出した。
青学の選手達が追って来たが、距離が離れていたので上手く撒くことができた。
「瀬川先輩。」
「どした?」
「みんな、洗脳されてるってことですよね。
…私や先輩に言ったこと、本心じゃないですよね。」
真琴の声は震えていた。
瀬川は彼女を元気付けるように、できる限り明るい声で答えた。
「きっとそうだよ。
あんなこと言う奴らじゃないのは、あたしたちが一番よくわかってるじゃん。
…でもそうと分かっても、やっぱり辛いもんだね。」
瀬川はさっき言われたことを思い出し、ぎゅっと胸を掴まれるような痛みを感じた。
「…全部解決したらさ、一発殴ってやろ。
あたしたちだけ泣かされて、そのままなんて酷いじゃん。」
瀬川がファイティングポーズを取るので、真琴は思わず笑った。
「いいですね、それ。そうしましょう。」
瀬川は真琴が暫くぶりに笑顔を見せたので、少しほっとしたのだった。
「じゃあ、私達で救ってやりますか。
全く、世話の焼ける部員達だこと。」