次の日の朝、真琴と瀬川は時間通りテニスコートへ向かった。
形上、全員着替えてコートに来てはいたが、練習を始めようとする者はいなかった。
両校の選手達は、宇都美を囲んで戯れあったり談笑したりしている。
遠目にも、幸村が宇都美を離そうとしないのが見て取れた。
真琴は少し胸が痛むのを感じたが、昨日のように取り乱したりはしなかった。
その奥に渦巻く重たいものを押し込めるように、胸に手を当てる。
「天澤ちゃん。」
肩を叩かれて振り返ると、瀬川の人差し指が真琴の頬にむにっと刺さった。
「計画通り頼んだよ。
それと、ちゃんと体力を残しておくよーに。
終わったら、あいつら殴ってやらなきゃなんないんだから。」
瀬川は悪戯っぽく笑うので、思わず笑みが零れる。
「ふふ、そうでしたね。…いってきます。」
真琴はラケットを手に、選手達の集まるコート横のベンチへ向かった。
きりりと結ばれたポニーテールが、彼女の決意を表しているようだった。
「…精市くん。」
幸村は鬱陶しそうに顔を上げた。
「何かな?もう近づかないで、って言ったと思うんだけど。」
冷ややかな視線を向けられ、その光の無い目に背筋が凍る。
真琴はここで負けてはいけないと、ぐっと拳を握った。
「じゃあ、テニスで勝負しようよ。
負けたら言うこと聞くから。ね?」
「どうして俺がそんなことをしなきゃいけないんだい?
面倒だからさっさと消えてくれ。」
「そんなこと言わないで。
…あ。もしかして、私に負けるのが怖いの?」
幸村がピクリと反応した。
「私に負けたことなかったもんね。ただの一度も。
でも今の精市くんになら、勝てそうな気がするの。
だってこんなところで練習もせずに遊んでばっかりだし。」
人を煽り慣れていない真琴は、昨日3人で考えたセリフを出来るだけそれっぽく口にしてみた。
「言わせておけば…。随分自信たっぷりだね。」
「幸村くん、私の仇取ってほしいなあ。
それに、テニスしてる幸村くんもすごくかっこいいし…。」
宇都美が幸村の腕に絡みつき、試合をねだってくれたことも追い風になったようだ。
幸村は宇都美を見て微笑む。
「わかった。藍菜の頼みなら。
こんな奴、すぐに片付けてくるよ。」
どうやら上手く乗ってくれたらしい。
とりあえず、計画通り。なんだかすでに一仕事終えたような気分だ。
コートに入ると、幸村もすぐに準備を整えた。
「幸村くん、がんばって!」
宇都美の黄色い声援が響く。
真琴と幸村はそれぞれの位置についた。
「自分の立場ってものが分かってないようだから、教えてあげるよ。」
幸村は不敵に笑う。彼の纏う気迫は、以前試合した時のそれと同じだった。
宇都美から少し離れたところにいる乾に視線を送ると、彼は小さく頷いた。
チャンスはきっと一瞬だ。
真琴は深く息を吸いこみ、サーブの構えを取った。