「…これが、今回の事件の一部始終だ。」
乾が語った内容に、立海の選手達は納得しながらもやり切れない気持ちでいっぱいだった。
夢なら良かったのに、と誰かがぽつりと呟いた。
「瀬川、真琴。…君たちには、本当にすまないことをした。」
幸村がそう言うと、他の選手達もそれぞれに謝った。
瀬川は首を振る。
「みんなが戻ってくれて良かったよ。」
本当は、彼らに言われた言葉も態度も、少しだけ心の底でひずんでいるように感じていた。
彼らの意思ではないとはいえ、傷は傷だった。
隣に座る真琴が、瀬川の裾を引っ張って目配せした。
彼女も同じ気持ちなのだろう。
瀬川は頷き、部員達に向き直った。
「ごめん。やっぱりさ、正直辛かったよ。
みんなに言われたこと。」
選手達の顔が曇る。
瀬川はつかつかと幸村に歩み寄った。
「ほんとは全員と思ってたけど…めんどくさいから代表、部長でいいよね。
はい、ここに立って。…そうそう。んで、手はこーして。」
幸村は言われるまま瀬川と真琴の前に立ち、両掌を胸の前で2人に向けた。
瀬川が真琴に目配せすると、彼女も頷いた。
「じゃあいくよ。」
「はい。精市くん、覚悟してね。」
そう言うと2人は拳を握り、片足を後ろに引いて構えた。
力強く、足を踏み込む。
「え?」
「せーの!」
幸村の両手のひらに、2人が拳を打ち込んだ。
ぺち、と音がする。
目をぱちくりさせている幸村に、瀬川と真琴は満足そうに笑った。
「色々傷ついたけどさ、本心じゃないだろうし今回はこれで許してあげる。
…それにしても、幸村体幹強すぎじゃない?
びくともしなかったじゃん。」
「ふふ、でもすっきりしましたね。」
いつもと変わらない2人の笑顔に、選手達は少し心が軽くなった気がした。
「乾、君にも本当に世話をかけたね。本当にありがとう。」
幸村が改めて乾に礼を言った。
「俺は偶々香を吸っていなかっただけだ。
結局俺だけではどうにも出来なかったから、君たちまで巻き込むことになってしまった。
こうして解決できたのは、瀬川と天澤が頑張ってくれたお陰だよ。」
「青学の皆さんは大丈夫でしょうか?」
真琴が尋ねると、乾は頷いた。
「ああ、問題ないよ。あいつらも香が切れる頃だろう。
俺はそろそろ失礼するよ。」
そう言って、乾は部屋を出た。
「貞治。」
彼を追いかけ、声を掛けたのは柳だった。
「今回は助けられてしまったな。礼を言う。」
「いいんだ。合宿前に連絡をくれていたのに、すまなかったな。
俺自身もいつ操られるか分からなかったから、迂闊に返事をできなかったんだ。」
「構わない。お前が無事であったならそれ以上のことはないさ。
…次に会う時は大会だな。恩はあるが、容赦はしないぞ。」
「ああ。俺たちはこれまで以上に力をつけて、お前たちのところまで行こう。
油断しないことだ。」
「楽しみにしている。俺たちは変わらず、決勝で待っているさ。」
2人はそう言って不敵に笑うと、それぞれの帰るべき場所へ歩き出した。