帰りのバスが着き、部員達は乗り場に集まっていた。
少し遅れて現れた幸村を見て、真田は驚きを隠せなかった。
「…精市、何かあったのか?」
幸村は青ざめた顔で、ふらふらになりながら漸く集合場所にたどり着いた。
真田の肩に手を置き、無理矢理笑ってみせる。
「いや、まあ…。色々あって。」
柳も心配そうに傍へ来て、幸村の荷物を預かった。
「随分顔色が悪いが…。もしや、あの香の影響なのか?」
「それはもう治ったんだ。ただ、その薬が…思った以上の威力で。」
「ああ、貞治が作ったのか…。それは大変だったろう。」
乾の幼馴染である柳は状況を察し、幸村に同情の眼差しを向けた。
真田は首を捻っていたが、幸村と柳が大丈夫だと言うのでそれを信じることにした。
「もう皆揃っているかい?」
幸村の問いに、柳が頷く。
「マネージャーの2人が最終確認に行ってくれている。
…ちょうど戻ってきたな。」
噂をすれば、真琴と瀬川がそれぞれ持ち場の確認を終えて戻ってきていた。
「異常なし、だよ。
…あれ、なんか幸村、元気ない?」
真琴が心配そうに幸村の顔を覗き込む。
「まあ、元気ではないかな…。
大丈夫、少なくとも香の影響はもう消えてるよ。
色々あったけど、ひとまず帰ろうか。」
皆は頷き、順にバスに乗り込んでいった。
真琴が続いて段差を上がろうとした時、最後に残っていた幸村が真琴の腕を掴んだ。
「わっ。」
不意に後ろに引っ張られ、よろけた真琴を幸村が抱き止める。
一見華奢に見える幸村だが、真琴はすっぽりと包まれてしまっていた。
真琴は急に恥ずかしくなってぱっと距離を取った。
「せ、精市くん、どうかした?」
何となく落ち着かなくて、真琴はユニフォームの一番上のボタンを指先で触っていた。
幸村が真琴を前にしても、触れても先程のように危害を加えようという衝動は起こらなかった。
乾の薬が効いたことを実感して、幸村は心底ほっとした。
「帰ったら、少し話したいことがあるんだ。
時間を貰えるかな?」
「うん、大丈夫だよ。何かあった?」
幸村は真琴の問いには答えずに、ただ微笑むだけだった。
「じゃあ、また後で。引き止めて悪かったね。」
幸村がバスに乗るよう促したので、真琴は腑に落ちないながらもそれに従った。
瀬川の隣に座り、窓の外をぼんやりと眺める。
(色々あったな…でも、もう遠い過去のことみたい。
みんなが無事でよかった。)
バスの振動が心地よく体に響く。
これまでの疲れが出たのか、真琴はいつのまにか眠ってしまっていた。