「真琴も背が伸びたね。ふわふわした雰囲気は昔のままだけど。」
「そうかな?」
昼休み、真琴は幸村に誘われ、真田、柳と4人で学食に来ていた。
「ああ。顔つきは少し大人びたな。」
「真田くんは本当に大人に見えるよ…。」
「む。」
真琴たちは昔とのギャップを思い出して、思わず笑った。
「そういえば、3人ともテニス部なんだよね。
すごく強いって聞いたけど…。」
幸村がうなずく。
「うちのテニス部は、全国大会で2年連続優勝してるからね。
真琴もテニスを続けているんだよね?」
幸村と真琴は手紙でやりとりをしていたが、お互いの詳しい近況は知らなかった。
「うん。3人に教えて貰ってから、テニスが楽しくて。
あんまり熱心にやってるものだから、お父さんとお母さんが習わせてくれたの。
今はお家にコートもあるんだよ。」
幼い頃、3人に誘われて真琴もテニスを始めた。
小学生とは思えない実力を持つ3人に真琴は到底ついていけなかったが、みんなで仲良くテニスを楽しんでいた。
いつの間にかテニスの楽しさに魅了されていた真琴は、引っ越してからもテニスを続けていたのだった。
家柄が良く蝶よ花よと育てられた割に、真琴は運動神経が良かった。
今やテニスにおいては凄まじい実力の持ち主なのだが、3人にはまだ知る由もなかった。
「3人で遊びに来てね。
私、みんなとまたテニスができるのを楽しみにしてたの!」
真琴はきらきらと顔を輝かせた。
柳はちらりと周囲に目を向ける。
端正な顔立ちの彼女は笑うといっそう魅力的で、自分では気づかぬうちに周囲の男子の視線を集めていた。
それに気づいた幸村が周囲への警戒心をあらわにしていることにも、彼女が気がつく様子はない。
(こういうところは相変わらずか。
そして2人の関係も進展なし、と。)
はがゆい関係の友人達を静かに見守るのが、幼い頃からの柳の立ち位置だ。
「精市、顔が険しいな。何かあったのか。」
幸村が番犬のような刺々しいオーラを発していることに気がついたのか、真田が不思議そうに声をかける。
「…なんでもないよ。」
幸村は不貞腐れたようにそっぽを向いた。
きょとんとしている真琴と真田の傍らで、柳は必死に笑いを噛み殺していた。
(まだまだ苦労が多そうだな。
…テニスでは神の子とまで言われる精市が、微笑ましいものだ。)