「ごめん、待たせたね。」
幸村はコートの前のベンチに座っている真琴に声を掛けた。
合宿後のミーティングが終わり、レギュラーメンバーは殆どがすでに帰路に着いている。
「大丈夫。
それにしても、何だったのかな…。」
「どうかしたのかい。」
「先輩達と切原くんがね、帰って行く時に私を見てすごいにやにやしてたの。
"がんばれよ"とか言って、背中叩かれたり…。」
真琴は顎に手を当てて不思議そうに首を傾げた。
幸村は大きく溜息をつく。
(あいつらは全く…。)
真琴と幸村が2人きりになれるよう柳が根回ししてくれたのだが、どうやらそれで察してしまったらしい。
明日はみんなから質問責めに合いそうだ。
「どうしたの、溜息ついて。」
「いや、何でもないんだ。帰ろうか。送って行くよ。」
「ありがとう。」
真琴と幸村は並んで歩き出した。
「それにしても、今回の合宿は予想外のことが色々あったよね。
手塚さんと試合もしたし、みんなが操られたり、その原因を暴いたり…。」
「真琴がいてくれて良かったって、乾が言っていたよ。」
「私は何も…。ううん、でも頑張ったかな。」
「これは部長として言うけど…改めて、テニス部を救ってくれてありがとう。
本当に、感謝してもしきれないよ。」
幸村は自身が部長を務めるテニス部を、責任を感じると同時に本当に大切にしていた。
何にも代え難いと言っても過言ではないそれを、失いかけたと思うと本当に恐ろしい。
「私も本当に良かったと思ってる。
勿論、私だけの力じゃないけど。」
真琴にとっても、幸村が纏めるテニス部はとても居心地の良い場所だった。
全員が同じ目標に向かっていて、お互いを尊敬し合い、高め合っている。
真琴はこのテニス部に入って本当に良かったと思っていた。
「…少しは恩返しができたかな。」
真琴はぽつりと呟いた。
「恩返し?」
「私ね、小さい頃精市くんたちに守られてばかりだったでしょ。
テニス始めたての頃、よくいじめられて。」
「ああ、そういえば…。」
幸村は昔、彼女が年上の男子達に絡まれているのを何度も助けたことを思い出した。
(あれはどっちかって言うと、好きな子に意地悪しちゃう系のやつだったような…。
真琴は昔から可愛かったからなあ。)
「私、庇ってもらってばっかりなのが悔しくて。
私も精市くん達がピンチの時は力になりたいって思ったの。
それもあって、テニス頑張ってたのもあるんだ。」
そんな風に思ってくれていたなんて、微塵も知らなかった。
少なからず幸村のためを思いながらテニスをしていたということが、彼には喜ばしく感じられた。
「それで本当に、俺達のことを助けてしまうなんてね。
真琴がこんなに強くなってたなんて、思いもしなかったよ。
もう守られるだけのお嬢様じゃないんだね。」
幸村は驚きながらも、一抹の寂しさのようなものを感じていた。
夕日が真琴の影を濃く映し出す。
彼女の横顔は、幸村が思っていたよりもずっと大人になっていた。