12

次の水曜日、丸井はまたカフェに来ていた。

なんとなくそんな気はしていたが、彼女は来ていない。

店員に聞いても、今週は見かけていないと言っていた。

何度目かわからないドアベルの音に入口を見ると、立海大の制服を着た男子生徒が立っていた。

丸井が片手を上げると、彼は気づいてこちらに歩いて来た。

「丸井くん、奇遇ですね。」

柳生はいつものように穏やかに微笑んだ。

「おう。お前一人なの?ま、座れよ。」

「ありがとうございます。では、遠慮なく。」

柳生は丸井の向かい側に腰を下ろすと、コーヒーを1杯注文した。

「ここで丸井くんに会うとは思いませんでしたよ。

こういうカフェにはよく来るんですか?」

落ち着いた雰囲気のこのカフェは、紳士的な振る舞いの柳生によく似合っていた。

「ああ。ここのドーナツが美味くてさ。

…あっ。今、店の雰囲気と合ってねぇとか思ったろ。」

柳生はくすりと笑った。

「そんなことはありませんよ。

むしろ、美味しい物を良く知っている丸井くんらしいなと。」

ドーナツとミルクセーキを頼んでいた丸井には、コーヒーを嗜む柳生が少し大人に見えた。

つくづく、丸井の周りには大人びた中学生が多い。

「そういえば丸井くん、もしかすると誰かを待っていたのではないですか?

私はここにいて良かったのでしょうか。」

丸井が入口が開閉するたびにそっちを確認しているので察したようだ。

もとより隠す気も丸井にはなかった。

「あー…うん。

でも良いんだ。多分来ねえから。」

もちろん良くなんてない。

本当は彼女にまた会いたくて、入ってくる人を見るたびにがっかりしていた。

先週は何が何だかわからないまま別れたけど、このまま終わりにしてはいけない気がした。

「そうですか。

そういえば…ここだけの話なんですけど。」

柳生は口元に掌を近づけ、声を顰めた。

「先週から丸井くんの様子が変だと、レギュラーのみんなが心配していましたよ。

照れ臭くて、君には言えないみたいですけどね。」

「えっ」

そんなにわかりやすく落ち込んでいただろうか。

丸井の心の声を汲み取ったように柳生が言う。

「食いしん坊の君が急に常人の量しか食べなくなったら、誰だって心配しますよ。」

「…そうだっけか。」

あれからずっと彼女のことを考えていて、そう言われれば部活も授業も…飯時ですら、あまり記憶に残っていない。

柳生は優しく笑った。

「何か悩んでいるなら、話くらいは聞きますよ。

大丈夫。みんなには秘密にしておきますから。」