「…なるほど。
彼女の真意が気になるところですね。
急用でもあったのでしょうか。」
柳生に一通りの経緯を話した。
名前も知らない少女が気になっていること、何度か会えるようになったと思ったら突然血相を変えて出て行ったこと。
柳生は丸井の話を根掘り葉掘り聞くでもなく、真摯に耳を傾けて終わるのを待っていてくれた。
丸井が彼女に感じている特別さの正体は依然わからないままだが、少し気持ちが軽くなったのを感じる。
「俺さ…自分でもわかんねえんだ。
何でこんなに、あいつのことが気になるのか。」
初めて見かけた時から、何故か忘れられなかった。
見た目が可愛いとか、そういうことじゃない。
何故だか彼女が自分の心にある空白に答えをくれるような気がしてならなかった。
直感的に、そう感じさせる何かが彼女にはある。
「そうですね…。本当は以前会ったことがある、というのはどうでしょうか。
例えば、小さい頃で忘れているとか。」
「忘れてる…か。」
物心つく前とかだったら、そんなこともあるかもしれない。
あいつは"思い出した"と言っていた。
俺が忘れてしまった何かを、彼女はあの瞬間に思い出したのだろうか。
だとしたら、何故あんな表情で俺の前からいなくならなきゃなんなかったんだ。
俺は過去にあいつに酷いことでもしたんだろうか。
「いずれにせよ、丸井くん。
君はもう一度彼女に会わなければなりませんね。
ここで考えていても、何にもなりません。」
「…やっぱそうだよな。」
彼女の通っている高校は知っているから、その近くにいるかもしれない。
もう一度会えたら、今度こそ名前を聞こう。
それに、もう少しなんだ。
もう少しで、何かがわかりそうな気がする。
あいつがどうしても気になるその理由と、俺が無くしたかもしれない何かの記憶も。
鍵は開きかけている。
「柳生、サンキューな。
俺、やっぱこのまま終わらせらんねぇわ。
ちょっと行ってくる。」
丸井は残っていたドーナツを頬張り、ミルクセーキを一気に飲み干すと立ち上がった。
柳生の思慮深く冷静な相槌が、丸井の背中を丁度良く押してくれていた。
「どういたしまして。
答えが見つかるよう、祈っています。」
柳生はただそう言って、丸井を見送った。